第28章 無欲と深愛※
よくもまぁそんなにも罵詈雑言が湧き出すものだ。はっきり言ってそれがほの花に向けられているなんて考えられない。
話を聞いていれば腹が立って仕方ないのだが、ほの花の本質を知っていればそれが当てはまらないのは明白。でも、楽しく会話しようとしている彼女の挙足をとって尚も暴言を吐くので堪忍袋の尾が切れた。
ほの花からちゃんと瑠璃と話がしたいから口を出すなと言われたが、我慢なんかできない。
最初は我慢していた。
でも、自分の女がこんな風に酷い物言いをされて我慢できるほど人間出来ちゃいねぇ。
それならば、我慢の足りない人間と言われても構わない。
しかし、口を開けばほの花を罵り、終いにゃ「遊郭に行け」だなんて笑えない冗談を言ってきたので奥歯を噛み締めた。
そんな瑠璃と一触即発な雰囲気に体裁を重んじるほの花が何も言わなくなったことに今度は申し訳なくなってきて腰を抱くことで怒りを何とか収めた。
ほの花のために瑠璃の罵詈雑言を言い返さずに我慢すれば、ただ助長されるだけ。
でも、俺が言い返せば空気が悪くなるのがほの花は耐えられないのだろう。
そんな優しい女をどうすれば守ってやれるのか分からなくなってきて頭を抱える。
手を出さないなんて俺には無理だ。
できれば部屋から出さずに真綿に包むように守って行きたいとすら思っているのに。
どんなに暴言を吐かれても慰労会だと言うことでもう一言も言い返さずに、ただニコニコと笑っているほの花に胸が痛んで仕方なかった。
「食べないの?お刺身美味しいよー?」
「…食欲なくなるっつーの。」
「えー?ほら、お醤油どうぞ。」
「天元、そんな女放っておきなさい。ほら、フグ刺し食べたら?はい。」
瑠璃が会話に入ってこれば、スッと身を引くように言葉を発しなくなるほの花にもう目も当てられない。
当然、食欲なんてない。
我慢ができずに、俺は瑠璃の手を振り払い、隣にいたほの花を抱き上げて居間を出る。
「悪ぃ、残ったやつは明日食うから。」
そう言い残すと箸を持ったままのほの花を部屋に連れ込んだ。