第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
逃げるように自分の部屋に帰ってくると久しぶりのそこにほっと一息吐いた。
ここにきてから一年と経っていないというのに怒涛の毎日を過ごしていたため、短い期間だと言うのにこの空間に安らぎを感じる。
「ほの花、入るぜ。」
「あ、は、はい!」
部屋の中に荷物を置き、手足を投げ出して座っていたところに襖の向こうから宇髄さんの声がして慌てて姿勢を正す。
「荷物片付けんの手伝うぜ?」
「え?!いや、大丈夫です!そんな師匠にそんなことさせられません!それにおやつばっかり持っていったので片付けるものあんまりないんです。」
「お前、まさか持っていったあの大量の甘味全部食って帰ってきたのか?」
「当たり前ですよ!おやつは食べられる分しか持って行ってないです!」
甘い物は別腹という女子特有の感覚は男性には分かる人が少ない。それは宇髄さんでもそうらしく、行きよりも軽そうなそれを見ると顔を引き攣らせていた。
「そ、そうか。それなら夕飯まで少し話さねぇか?はじめての鬼狩りはどうだったよ?」
手伝いに来てくれたのは有難いが、本当に片付けるものなど殆ど無いので丁重にお断りするとすぐに部屋を出ていくのかと思いきや、私の前にドカッと座り込む宇髄さん。
私の話を聴いてくれるのはいつものことだが、部屋でこうやって面と向かって話すのは久しぶり。
部屋の中には私と宇髄さんしかいないということで些か落ち着かない。
あの三人にまた誤解されやしないかヒヤヒヤしていたからだ。
「え、えと…、宇髄さんがいつも手合わせして頂いていたからか襲ってきた鬼はあんまり強くなかったです。」
「まぁ、生捕りにされるような鬼だからなぁ。強ければ捕まんねぇよ。」
「なるほど…!なので最初の方に倒したきりであとはカナヲちゃんとお茶会をしてました。」
「そんな余裕がある奴らも珍しいけどな…。」
「ハハッ」と笑う彼の顔が今までよりももっともっと優しくて、何だか切なくなった。
この笑顔は私のためのものじゃないと考えてしまうから。