第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
ほの花が慌てたように一人部屋に駆けていったのを放心状態で眺めてしまっていた。
俺は失念していた。一番の恋敵はアイツのクソ真面目な性格なのではないか。
三人の嫁たちのことを考えると自分と俺がどうにかなったらいけない。誤解されるような態度を取らないと最初に豪語していたアイツのことだ。それを全うしなければと想っているに違いない。
「天元様って…意外にぼんくらなんですねぇ。」
「あぁ?!」
「だってそうじゃないですかぁ!何そんなとこでボケっと突っ立ってるんですかぁ?好きな子には優しく〜ですよぉー!行かないなら私がほの花さんのお手伝いして一緒にお風呂入っちゃいますからね!」
須磨にまでそんなことを言われてしまい、眉間に皺がよる。言わせておけば好き勝手言いやがって。
「うるせぇな。いま、行くとこだろうが!」
「じゃあ私たちはほの花さんのためにご飯でも作りますのでちゃんと連れてきてくださいねぇ。」
しかしながら勿論、しがらみがなくなった以上、すぐにでもほの花を自分のものにしたい欲もあるが、焦ればすり抜けるようにいなくなってしまう気もしている。
好きだと気づいてしまった以上、ただの師匠と継子の関係など自分には無理だと分かっているが、無理矢理押し倒すわけにもいかない。
大切に大切にしたいのにまきをが言っていたように誰かに先越されてしまうのではないかという気持ちも無きにしも非ず。
最終選別で誰かがほの花に言い寄ってないか気になって仕方がない。
俺は履物を脱ぐとほの花の部屋に向かった。
近付けばふわりと逃げるアイツを捕まえたくて仕方がない。
アイツの中の"師匠"としての俺を"男"の俺に変えてやるだけのこと。
「…上等じゃねぇか。」
強い鬼に出会った時のような武者震いのような高揚感が体を支配している。
絶対に捕まえてやる。