第28章 無欲と深愛※
しかしながら、そんな宇髄さんをなんとか説得して…いや、説得はできていないが、"できる限りの協力"はすると言ってくれたので、私はその日からすぐに実行に移すことにした。
一先ず、仲良くなるのは難しいにせよ、たくさん話してみよう。
「ほの花!正宗!隆元!大進!よく戻った!お疲れ!乾杯ー!」
宇髄さんの乾杯の音頭で慰労会が始まると、もうすでに刀鍛冶の里にいた時のことを忘れてしまっている自分に気づく。
瑠璃さんのことに気を取られていたが、今思えば一ヶ月よく耐えたと思う。
宇髄さんにも会えず、医療者も次々と倒れて、たった一人の医療者として心細かった。
大きな村ではないから良かったものの、あれ以上、大きな村であればひょっとしたらもっと死者を出していたと思う。
そう考えるととても幸運だったし、今更ながら鼻の奥がツンとした。
此処に戻ってこれたことも嬉しいし、こうやってみんなで食卓を囲むことができることにホッとしたのだ。
泣きそうになってしまったことで口内に溜まった唾液を飲み込むことで何とか耐える。
しかし、そんな私の様子にすぐに気づいてくれる宇髄さんは瑠璃さんに見られないように背中をぽんっと撫でてくれた。
唇をかみしめて彼に笑顔を向けるが、涙が溜まる瞳を隠すためにすぐに下を向いた。
そんな私の真意を悟り、明るい話題を振って場を盛り上げてくれる宇髄さんのおかげで皆の注意を逸らせたのは本当に有難い。
こんな場で泣いていたら空気を悪くしてしまうし、瑠璃さんにも余計嫌われてしまうだろう。
下を向いて必死に呼吸を整えると、目の前に広がるご馳走に目を奪われる。
慰労会のために朝から雛鶴さん達が腕によりをかけて作ってくれていたのは知っている。
私たちのために此処までしてくれて感謝しかない。
ふと、瑠璃さんを見れば宇髄さんに変わらず絡んではいるが、どこかその瞳が寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
鋼の精神力だとは思うが、好きな人に拒否をされることの悲しみを考えるととても居た堪れない。
自分だったら一度で諦めてしまうと思う。
何度断られても不屈の精神力で諦めない瑠璃さんは実は己の心に素直で忠実なだけなのかもしれない。
それは少しだけ羨ましい。