第28章 無欲と深愛※
宇髄さんの口づけから解放されると、手を引かれて屋敷に戻ってきた。
着いた瞬間、瑠璃さんに槍のような暴言を浴びせられるが、やはり全く気にならない。
瑠璃さんから守るように背中に私の姿を隠してくれる宇髄さんの愛に顔がにやけるのを必死に抑えた。こんなところでにやけ顔を見せていたら益々、火に油を注ぎ瑠璃さんの癪に触るに違いない。
ひとまず宇髄さんの部屋に戻ってくると薬箱を置いて手洗いをしに洗面所に向かう。
「…ねぇ、別についてこなくていいよ。」
「何で?俺が一緒にいたいんだけど。一ヶ月も顔見れなかったんだぜ?本当は四六時中一緒にいたいのを我慢してるんだ。これくらい良いだろ?」
昨日からと言うもの宇髄さんは移動する度に私の後をついてきて、隙あれば抱き締めたり、口づけをしてきたりする。
いや、とても嬉しいけど…だけども、差し詰金魚の糞だ。
どれほど愛していてもいつでも何処でもこんな感じでは瑠璃さんに見つかったら、「また天元を誑かして!」と怒られてしまう。
そして、それが引き金でまた宇髄さんと瑠璃さんの言い合いが始まってしまえば止める術はない。
「…瑠璃さんに見つかったらまた怒られちゃうから。ね?」
「はぁ?!何でアイツに遠慮するんだよ。俺は自分の女と好きな時に口づけたり抱き締めたりできねぇの?しかも自分の屋敷で?!」
「いや、そうなんだけど…!私も説得したいのに天元が入ってくるといつも喧嘩になっちゃうじゃない!納得してもらえないといつまでも此処にいると思うよ?」
「一週間経ったら引き摺り出してでも帰す。説得したって無駄だって。アイツは昔から頑固者だ。」
遠い目をして、もう打つ手はないから一週間やり過ごして、実力行使をすることしか頭にない宇髄さん。
でも、それでは根本的な解決にならない。
頑固者だとしてもならず者だとしても何であっても説得する必要はある。
何もせずに一週間過ごすなんてそれこそ無意味な時間としか思えない。
「でも、私はそれだと嫌なの。ちゃんと認めてもらいたい。だから天元も協力してよ。彼女の前では私のことを庇ったりしないで。お願い。」
「はぁ?!無理無理!派手に無理!絶対ェェ無理!!!」
聞く耳を持たない宇髄さんにこちらもまぁまぁの頑固者だと天を仰いだのは私だけだった。