第28章 無欲と深愛※
でも、此処に来たなら彼女達の意見を少しだけ聞いてみたくなった。事実を伝えずに、例え話として聞けば問題ないだろう。
「ねぇねぇ、もしさ…急に元恋人が現れて、自分の恋人を返せって言われたら二人ならどうする?」
事実と若干違うけど、大まかにはそういうことだ。第三者的にはどのように映っているのだろうか?
私自身は彼を諦める気もないし、手放すつもりもない。
それでも、身の振り方を間違えたら余計に怒られてしまうのが目に見えているのだ。
「えー?!何それ!返さないに決まってるじゃん!別れてるんでしょ?それなら関係なし!」
「もし返してくれるまで許さないって言われても?」
「当たり前じゃん!その元恋人の女の人のことは分からないけど、自分の恋人がそばにいてくれるって言ってるなら私なら離れない!」
アオイちゃんはさも当たり前のように鼻息荒くそう言うので少しだけホッとして顔を緩ませる。
そして今度は隣でニコニコしながら話を聞いていたカナヲちゃんに話を振ってみる。
「カナヲちゃんは?どう思う?」
「…経験したことないからよく分からないけど…音柱様は物じゃないから"返せ"なんて言うのは良くないと思う。」
「あー!確かにね!それは良くないわ!音柱様に失礼だもの!」
「…そうだよねぇ……って!え?!ち、違う違う!宇髄さんのことじゃなくて…!!た、例え話なの!」
そう言って慌てて訂正するが、後の祭りだ。二人は特に驚くこともなくニコニコと微笑んでいるだけ。
「えー?ほの花ちゃんが悩むことなんて音柱様のことしか無いのに何で隠すの?変なの。」
「お、お願い!今の話は此処だけの話にして?!」
こんな簡単にバレてしまう自分に嫌気が差すが、今はこの場を収めることが先決だ。
瑠璃さんに鬼殺隊のことを言っていないと言うことは、鬼殺隊の人にも言っていないと言うこと。
それなのに私がみすみすバラすなんて許されない。
懇願するように二人に頭を下げれば、顔を見合わせて「ふふ…」と笑った。
「分かってる!友達だもの。内緒にする。」
「師範にも言わないから安心してね。」
二人のことは信頼してる。
だから心の内を相談したくて話をした。きっと言わないと言ったら内緒にしてくれるだろうが、自分の分かりやすさに腹が立ってしまった。