第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
「ほの花さーん!おかえりなさぁぁい!」
抱きついてきた須磨さんを受け止めると玄関で勢揃いしていた残りの五人の顔を見ただけで帰ってきたのだと感じてまた鼻がツンとしてしまう。
「た、ただいま…帰りました…。」
「お前、まだ泣くつもりか。」
頭の上から降ってくる宇髄さんの言葉に必死に堰き止めようと試みると、なんとか思いとどまってくれる涙。
「…お、おかえりって言われると嬉しいじゃないですか…。」
「半刻前からずっと泣いてた奴の発言とは思えねぇな。おかげで俺の服はびしょ濡れだ。」
「すみません…。」
「天元様ったらぁ〜、ほの花さんがいなくてずーっと寂しそうだったくせにぃ!意地悪は駄目ですよぉ〜?」
突然須磨さんがニヤニヤとそんなことを言ってくるものだから堰き止められた涙は引っ込んだ。
ニコニコしている須磨さんに誤魔化されまい、と一人で慌てる私は滑稽だが、継子らしく振る舞わなければとひどく動揺した。
「何を言ってるんですか〜!宇髄さんは須磨さん達が居れば寂しくなんかないですよね!」
「え〜?私たち?何でですか?」
何でも何もない。
そんなにおかしなことを言ってる自覚がない私はこの話題を早々に切り上げたくて履物を脱ぐと"荷物の整理をする"と逃げるように自分の部屋に駆け込む。
だって私がいなくて寂しいなんてあるはずがない。揶揄っているのだとわかっている。これはきっと宇髄さんの愛を試すためのものだ。
そんなこと分かっているが、自分がいないと寂しいと思ってくれてるのが本当だったら…なんて夢みたいなことを考えてしまう私は随分と夢見心地だ。
大丈夫。
宇髄さんは奥様がいて、
私は継ぐ子。
心の中で反芻すると納得させる。
約束したではないか。継子らしく振る舞うと。
私一人の感情などこの場合、大した問題ではないのだ。