第28章 無欲と深愛※
あまね様の言う通りで、大きな体調の変化はないようで、ほんの少し調合を変えただけの薬を渡すと産屋敷邸を後にした。
「…ほの花様、頂いておいて今更ですがこの謝礼はどうしましょうか?」
「それは三人で分けて?」
「いえ、流石に多すぎます。」
正宗はそう言うけど、きっと産屋敷様は今回のお給金で私の分は別で謝礼金を余分にくれてしまいそうな気がするのだ。
彼はそう言う人だ。
あれは彼ら三人のもので、あの場で渡したのは遠慮なく受け取らせるため。
そうでなければわざわざ正宗達まで呼ぶことはない。
「いつか貴方達だって再びお嫁さんをもらうでしょう?その時に何か贈るために取っておいたら?私はお給金があるし、いつもいつも宇髄さんが出してくれるから貯まり放題なの。」
そう。普段の生活費は宇髄さんが全て賄ってくらているし、それ故私のお給金は薬剤やら器具やらにしか使われずに余っているほど。
だから正宗達に慰労金として渡していたのだ。
欲しいものも特にないし、何不自由なく暮らせているのは宇髄さん含めあそこに暮らしてる人たちのおかげだ。
雛鶴さん、まきをさん、須磨さんがいなければ家の中はぐちゃぐちゃだろうし、美味しいご飯も食べられない。
瑠璃さんに"役立たず"の烙印を押されたとしても強ち間違いでもないので言い返せないし、言い返すつもりもない。
私は
宇髄さんがいなければ、
雛鶴さん達がいなければ、
正宗達がいなければ、
生きていけない自信がある。
前はそれが恥ずかしくて必死に努力していたけど、ない袖は触れないし、言い訳になるが全て完璧にやろうとすれば時間が足りない。
だから甘んじてそういう苦言は受け入れるし、その代わりたまに彼女達を労ったりする配慮も忘れないようにしている。
人は一人では生きていけない。
でも、一人で生きていけないなら、私はあそこにいる人たちと共に生きていきたい。
心からそう思う。
「では…有り難く頂戴します。」
「うん。たまには思いっきり贅沢でもしておいでよ!いつもありがとうね。正宗、隆元、大進。」
「「「こちらこそ。」」」
町に向かう帰り道、泣きたくなるほど幸せだと感じた。
私は恵まれている。
好きな人に愛されて、大切な人が周りにいてくれることほど幸せなことはない。