第28章 無欲と深愛※
溢れてきてしまった涙を必死に拭うが、後から後から溢れ出るそれを止める術がなく、静かな空間に私の嗚咽だけが響く。
「…正宗。大丈夫だよ。もちろんこれを受け取ったことを誰にも言う必要ないし、仮に言ったとしても何の問題もない。自分達だけでは考えつかないような予防措置を教えてくれて、身を徹して刀鍛冶の里へ救護活動をしてくれた君たちに暴言を吐くような者がいたらその者を処罰しよう。」
「…ありがとうございます。我々は謝礼を受け取るために任務に同行したわけではありません。しかしながら、頂いた評価を無碍にすることも出来ない故、有り難く頂戴致します。今後ともほの花様をよろしくお願い申し上げます。」
そう言うと正宗は立ち上がり、風呂敷包の前に跪き、再び深くお辞儀をしてそれを受け取った。
こんな風に親身になってくれる産屋敷様に感謝しかないし、情けない主人を持って苦労をかけている筈なのにいつだって味方でいてくれる正宗達。
この三人がいなければ間違いなく私は此処に辿り着く前に里で後追いしていたことだろう。
独りぼっちなんて耐えられない。
改めて彼らに感謝の気持ちが溢れ出てきて唇を噛み締めた。
「ほの花、正宗、隆元、大進。今回の任務、本当にお疲れ様。君たちのおかげだ。ほの花は暫く暇を貰ってね。天元にも伝えてあるから。」
「はい。ありがとうございます。」
「うん。じゃあ、暇前に薬だけお願いしようかな?」
産屋敷様がそう言えば、すぐに正宗達は立ち上がり「我々は外で待ちます」と言って頭を下げて出て行った。
久しぶりの二人きりの空間は懐かしい気分になる。私にとって彼は当主というよりも父のような兄のような…家族と変わらない存在。
皆が敬う雲の上の存在なのにそう思わせてくれるのは彼の優しい穏やかな雰囲気のおかげだ。
横に置いていた薬箱を持つといつものように彼に問診をするところから始める。
病は確実に進行している。
目はもう見えなくなってしまったし、一人で立ち上がるのはもう難しい。
それでも生涯彼に仕えよう。
頂いた恩を命をかけて返していこう。