第28章 無欲と深愛※
産屋敷様の屋敷は周りの立地も含めて荘厳だ。
いつも此処に来ると身が引き締まる想いで、背筋がシャンとなる。
昨日来たばかりとは言え、それは変わらない。
大きな門を通り抜けると見慣れな玄関が目に入る。
「こんにちはー!神楽ほの花です!」
こうやって声をかければものの数秒であまね様が出ていらっしゃるのだが、どこかで私たちが来るのを見えるのだろうか?と思うほどに早い。
あまね様はお淑やかで品があるけど、とても俊敏には見えない。予知能力が無い限り、私たちが来るのを見計らい、待機してくれているのだろう。
当主の奥様なのに威張ってもいないし、こういう気が回り、痒い所に手が届くあまね様は私の理想の奥様だ。
「ほの花さん。お待ちしておりました。そちらは護衛の方々ですね。どうぞお上がりください。」
「ありがとうございます。」
後ろにいた正宗達と共に頭を下げて履物を脱ぐと促されるまま、後をついて行く。
「あの、産屋敷様は私がいない間、体調とか崩されませんでしたか?」
「はい。とても穏やかな日々を過ごさせて頂いています。」
そう言われて漸くほっと胸を撫で下ろす。昨日は柱全員がいたし、心配させないためにそう言ったのかと思っていたけど、あまね様が言うならば間違いないだろう。
襖の前まで来ると彼女を見送り、後ろの三人を見る。産屋敷様の屋敷に四人で来るのは此処に来たばかりの頃以来だ。
一年もしないうちに様変わりしてしまった環境だけど、あの時受け入れてくれた産屋敷様のおかげで今のわたしたちがある。
四人で救護に行けたのはどこか少しだけ恩返しをできた気になった。
「産屋敷様、ほの花です。失礼します。」
「どうぞ。」
彼の声が聞こえると襖を開けて中に入る。
縁側の近くに腰を下ろし、こちらを見つめている産屋敷様はにこりと微笑んでいた。
「やぁ、よく来たね。正宗達もわざわざありがとう。此方においで。」
手招きをする産屋敷様に正宗たちと再び顔を見合わせて頷き合い、歩みを進めた。