第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
「だって、嫁に拘る必要あります?祝言を挙げたわけでもないし、口約束のようなものですよね?私たちはどんな形になっても天元様のことを大好きです。でも、自分の心に正直にならないと欲しいものは手に入りませんよ。」
まきをの瞳は悲しむわけでもなく、さも当たり前のようにそう言って退ける。俺の方がよっぽど女々しい男だ。
「まきを…。」
「って、雛鶴と須磨とも言ってたんです。それに私たちほの花さんならすごい嬉しいです!というか何なら天元様とは家族だと思ってたからほの花さんも家族になるなんて素敵!」
「お、おい…、取り敢えず落ち着け。ほの花だって選ぶ権利があるだろうが。」
「……天元様ってそんな地味な人でしたっけ?」
「…は?」
急に地味扱いしてきたまきをに顔が引き攣った。
おい、誰が地味だ。一番言われてくねぇ言葉じゃねぇかよ。
「だって私たちがついて行きたい!と思ったのは豪快で男気があって、でも命を大切にしてくれる優しい天元様なのに最近の天元様って何もかもが地味ですよ。"俺に惚れさせてやる!"くらいの強引さがあってこその天元様なのに、"ほの花にも選ぶ権利があるある"なんて…っ、く、あは、あははは!」
途端に笑い出したまきをに呆気に取られた。
物凄い悪口を言われたのにちっとも嫌じゃなかったのはそれほどまでに図星だったから。
いや、この俺がアイツに対してここまで弱気だったのかと思うと情けなくてたまらない。
まきをの言う通りだ。
今の俺は地味中の地味人間だ。
「…クッソ腹立つ。」
「げっ、す、すみません。笑いすぎました!」
「違ぇよ。俺自身にだ。今日の夕食の時に話があるから全員に声かけておいてくれ。」
「え、あ、はい!わかりました!」
三人のせいにして俺は逃げてただけだ。アイツから。
向き合おうとしなかった。
もう逃げねぇ。
地味って言われるのは死ぬほど屈辱だ。
派手にぶちかましてやろうじゃねぇか。