第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
ほの花が最終選別に旅立つと家の中が急に広く感じる。
アイツの護衛だった正宗達はいるのだから実質八人から七人に減っただけのこと。そこまで広さを感じるほどのものではない。
「…はぁ…。」
「天元様10回目です。」
「…あ?…何が。」
「ため息の数です。朝から10回目になります。」
そんなにため息を吐いていただろうか。縁側でぼーっとしながら庭を見ていると洗濯物を干していたまきをにそう教えられた。
あまりに無意識にしていたので全く気付かなかった。
「ほの花さんがいなくて寂しいですね?」
「…別に…すぐ帰ってくんだろ。」
「私は心配です。」
「…負けやしねぇよ。」
「違います。ほの花さんが最終選別で出会った知らない男に手を出されないか心配なんです。」
「はぁ?」
心配ってそっちの心配かよ。
アイツは確かに綺麗な顔をしているが…。
良い体つきもしているが…。
性格も天真爛漫でクソ可愛いが…。
「…お、鬼と戦いに行くんだぞ。ンな余裕なんか誰もねぇだろ。」
「分からないですよー?だって吊り橋効果って言葉があるじゃないですか!苦楽を共にして恋に落ちたー!なんて男女ではよくあることです。」
「…ほの花が鈍感でどうせ気付かず終わるだろ。」
「積極的に想いを伝える人だったらあるんじゃないですか?いいんですか?先越されちゃいますよ。」
まきをの言葉をしれっと聞き流そうとしていたが、発言の内容に慌ててそちらを向く。
「あのな、まきを…。」
「天元様、私たちのことは気にしないで良いですからね。」
「…は?」
「"嫁"と言う立場で里から抜けてきたから責任を感じてくれてるのかもしれませんが、私たちは天元様の幸せを第一に考えています。あなたが私たちの命を考えてくれたように。」
驚いて何も言えない俺にまきをは笑ってこちらを見ていた。ここまでハッキリと言われたことがなかったため、どう反応したら良いのか分からない。