第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
「う、ふぇ、ひぃ、っ、と、とまらないー。」
「ったく…仕方ねぇ奴だな。ほら、お前は胡蝶んとこ送ってやるから行くぞ。」
涙が止まらない私のことを軽々と担ぎ上げると、カナヲちゃんに向き合って手招きをした。なんて情けない姿なのだ。カナヲちゃんより私のがお姉さんなのに…!
「音柱様、ありがとうございます。」
「おー、お前も生き残って何よりだ。胡蝶も気にしていたぞ。」
「師範が…?」
ぽわぽわーっという効果音が聞こえてきそうなくらい嬉しそうなカナヲちゃん。しのぶさんのことが大好きなようで他の人にはしない態度をしているが、いつもニコニコしているので多少分かりにくい。
しのぶさんが自分のことを気にしてくれていたというのが嬉しいのだろう。
私だって宇髄さんが迎えにきてくれたことが本当に嬉しかった。
離れていたこの期間、宇髄さんのことを思い出さなかったことはない。
一日のうち何回も何回も彼のことを思い出す。
カナヲちゃんがしのぶさんを大好きなように私も宇髄さんが大好きだから。
彼の匂いが
体温が
声が
信じられないほど自分の心を掻き乱す。
でも、信じられないほど安心する。
存在自体が私の心を一喜一憂させるから苦しい時もある。でも、ほら…頼りになる背中に追いつきたい。
あわよくば彼の背中を守れるような継子でいたいから。
継子ならそばにいることを許される。
継子でいいから。
何も望まないから少しでも長く彼と一緒にいたい。
顔を見た瞬間に嬉しくて涙が溢れてしまうほど大好きな人は私の師匠。
間違わないから。
だから今だけ彼の腕の中にもう少しだけいさせてください。