第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
庇ってくれた御礼に怪我していたところに塗る軟膏をあげると満面の笑みで喜んでくれて益々弟感のある可愛い炭治郎と別れると私とカナヲちゃんは帰路に着いた。
旅というものは行きよりも帰りの方が早く感じるというのは本当だ。
あっという間に見慣れた町が見えてくるとカナヲちゃんと顔を見合わせた。
(…良かった。帰ってこれたんだ。)
鬼殺隊になったことが始まりであり、ここからが大変だということは分かっているが、"死んだら殺す"という脅し文句は何とか切り抜けたのだと思うと感慨深い。
でも、肩の力が抜けかけたところで突然声が降ってきたら死ぬほど驚くのは仕方ないことだと思う。
「よ!帰ってきたか!お疲れさん」
「んぎゃぁぁぁぁあああ!!」
「あ、音柱様。」
突然目の前に音もなく降って湧いてきた宇髄さんに私は腰が抜けて驚いた。その隣で涼しい顔をしているカナヲちゃんはなんて冷静なのだ…。
「んぎゃーって俺はバケモンかよ。せっかく迎えにきてやったっつーのに、可愛い継子にバケモン扱いされて悲しいなぁ。俺泣いちゃいそう。」
「いや、す、すみません!だって急に降ってくるから!!鬼よりも驚きましたけど!!」
「仕方ねぇだろ。そこの木の上からお前らが歩いてくるの見てたんだから。」
そう言って指差した木は屋根よりも遥かに大きくて"跳躍力が普通にバケモンなんですけど…"とここまで出かけたがグッと我慢した。
まぁ、柱ならば当たり前だとは思うけど…。
「お前、いまめちゃくちゃ失礼なこと考えていただろ。」
「いいえ!全く!滅相もございません!」
「…嘘をつく悪ーいほの花ちゃんはどこだろうなぁ?」
そう言うと頭を掴まれて上からニヤリと悪い顔で見下ろされる。しかし、離れていた期間にこんなことをどれだけ頭で思い描いたか。
どれだけ早く会いたいと思ったか。
事あるごとに宇髄さんを思い浮かべていた私は僅か一週間ちょっとなのに懐かしくて涙が溜まってきた。
それを見た宇髄さんがギョッとして慌てて離してくれるが、一度出たものは止まらなくて私はカナヲちゃんもいるのにその場で号泣してしまった。
そんな私の肩を優しく抱いてくれる宇髄さんに益々涙は止まらなくてまだ町の中じゃなくて良かったと心底思った。