第5章 実力試験は実戦で【其ノ弍】
藤襲山──
──最終選別当日
「ここが藤襲山かぁ…。」
「そうみたい。」
カナヲちゃんと女二人旅…なんて可愛いものではなく、それはそれは恐ろしい鬼退治もとい最終選別を受けに来た。
あの日以来、冨岡さんとは一度も会わなかったが、ふとそう言えば"知り合いのような人"とやらはいるのだろうか。
キョロキョロと見渡してみてもどの人なのか分からない。
そりゃあそうだ。だって私が知っているのは名前だけ。外見の特徴などは一つも聞いていないのだから。
「…ほの花ちゃん、誰か探してるの?」
「ううん。何でもないの。」
カナヲちゃんはあまり喋らない子で、ニコニコとして可愛らしいんだけど、"どうでもいい"とよく言っていて、その笑顔は笑ってるのにどこか笑っていないように感じていた。
しのぶさんが私とは"仲良く助け合うように"と言ってくれて、日常会話くらいは出来るようになった。ただカナヲちゃん主導で話すことは殆どなく私の会話に相槌をうつ程度。
それでも仲良くなりたくて親しみを込めて"カナヲちゃん"と呼んでみたら思ってるより気に入ってくれたのか歯に噛むように笑ってくれたので、そこからは自分のことも"ほの花ちゃん"と呼んでもらうようにした。
大した話はまだ出来ていないが、それだけでもカナヲちゃんと仲良くなれたように感じて私は嬉しかった。
「はぁ…、死んだら宇髄さんに殺されるから生きて帰らないと…。」
「音柱様は死んでも殺せるの?」
「うん、そうなるよね…?日本語って難しいね…?」
そう、めちゃくちゃなことを言っているのは分かっているが、要するに宇髄さんなりの激励で、"絶対に死ぬな"と言ってくれてるのだ。
だが、そんなことをカナヲちゃんに言っても意味がわからないだろう。
キョトンとした可愛い顔で見上げてくるものだから私は思わず彼女を抱きしめてしまった。
(…可愛いっ!!)
後から考えたらだいぶ緊張感がない。
でも、きっと良い意味で力が抜けてて良かったんだと思う。