第26章 君の居ない時間※
「十五分経ちました。どこか痛いところなどありませんか?」
「ああ、無い。」
「効力は二週間後ですので、それまでは感染対策をしっかりして過ごしてください。では、私たちはこれで失礼します。」
鋼鐡塚さんは副反応もなく、十五分間ひたすら刀の話をぶっ通しにするほど元気になっていたので、一安心した。
広げていた薬箱から副反応が出た時用の薬を出す。これが彼に渡す最後の薬だ。
此処にまた来ることはあるかもしれないが、暫し別れとなる。
「もし、副反応が出たらこれを飲んでください。そこまでひどくないと思いますが、まだ三日いますので何かあれば診療所まで来てください。」
薬を手渡すと「ほの花」と名前を呼ばれる。
そういえばここ数日でやっと名前を呼んでくれるようになった。仲良くなれたかどうかは分からないが距離が縮まったのは間違いない。
担当の刀匠の人に嫌われたままなのはツラいので良かったと言える、
「はい。何でしょう?」
「もし、その男にフラれたら俺のとこに来てもいいぞ。面倒見てやる。」
「え?!?!なっ!ふ、フラれません!!さっきまで優しかったのに何で最後に意地悪言うんですかーー!!」
「これを意地悪って取るならまだお前は男心の"お"の字もわかんない糞餓鬼だな。分かるようになったら来い。元気でな。」
「く、くそがき…!!もう…いいです!ありがとうございました!!お元気で!!」
彼の言ってる意味も分からずに、薬箱を担ぐと眉間に皺を寄せながら一礼をした。
しかし、何故かひょっとこのお面を外した鋼鐡塚さんが穏やかな顔をしてこちらを見ていて、小首を傾げた。
あんなに意地悪を言ったくせに優しい顔をするなんて意味がわからない。
どうせ揶揄われたに決まってるけど、偏屈だと言われていた鋼鐡塚さんが自分を認めてくれたような気がして嬉しかった。
私たちはそれから三日間、感染者が出ないことを見届けると里の皆さんに別れを告げて産屋敷様に指定された隔離をするための場所に向かった。
あとはそこで一週間、自分達が発症しなければ帰れる。
待ち侘びた場所に。
待ち侘びた人の下へ。
それを考えるだけで心が躍るのはやはり安心できる場所は彼の腕の中だと分かっているからだ。