第26章 君の居ない時間※
鋼鐡塚さんから返してもらった舞扇が…
「…わ、私のじゃないみたい…。」
「いや、間違いなくお前のだ。」
「可愛い…けど、使うの勿体無いです。あの、普段使い用の舞扇も作ってもらえませんか?!」
「お前は阿呆なのか?!?!」
信じられないと言った声を浴びせてくるが、綺麗な柄が彫ってあり、金属で作った花の根付まで付けてくれてある。
これならば最早戦うというより本当に踊れる。
文字通り、舞を踊るための扇ではないか。
勿体無い……勿体無さすぎる。
無機質な舞扇だったから気にせず使えたけど、こんな綺麗な舞扇を壊してしまったらと思うと気が気でない。
「…だ、だってぇ…。でも…凄く綺麗でとても気に入りました。鬼狩りしてる時に見惚れないように気をつけます。」
「それは大いに気をつけろ。そのせいで怪我したとか言われて柱の男が此処まで押し掛けてきたら面倒だ。」
「なっ!?いくらなんでも宇髄さんはそんなことしませんよ…。たぶん。」
いや、予測不可能なことをするのが宇髄さんだ。
私なんかでは到底考えつかないようなことを思いつく天才なのだ。
愛してくれているのは分かるが、それは考えすぎだということが何度あったか…。
もし、そのせいで怪我をしたとなれば鋼鐡塚さんが言うようなことがあり得ないとは言い切れないのが悲しいところ。
「…いや、すみません。気をつけます。本当にありがとうございました。」
それを受け取り、吊り下げていた腰ベルトに久しぶりにそれを入れると心地よい重さが懐かしい。
「…礼を言うのはこっちの方だ。こんなもんしかできないが、存分に使え。だが壊すなよ。壊したら二度と作ってやらんからな。舞扇なんか持ってんのお前だけなんだ。俺がどれだけ心血注いで作ったか…」
鋼鐡塚さんは刀のことになると途端に饒舌だ。
どこにこだわっただの、ここの装飾がどうの…と無限に出てくる刀の話題。
筋金入りの刀匠なのだろう。
鉄珍様に直々に頼まれるくらいなのだから腕も確かな筈。
助けられてよかった。
あの夜、もう少し早くいっていれば苦しむ時間は少なく済んだかもしれない。
でも、生きててよかった。
こうやって生き生きとしている患者さんを見ると此処に来た意味があったとこの瞬間、やっと思えた。