第26章 君の居ない時間※
だが、その男の一言だけでやはりどこかの令嬢と言うことだけは見当がついた。
まぁ、変な女だけど所作には品があったし、少しばかり世間ズレしているような気もしたので、お嬢様なのだろうという予感は当たっていた。
益々、アイツの男が不憫だな。
まぁ、他人の恋路だから知ったこっちゃねぇが。
「…あんな跳ねっ返りを護衛すんのは骨が折れるだろうな。」
「…恐れ入ります。」
「ハハッ、否定しないのか。」
「否定できるだけの要素がありませんので…。でも、自慢ではありませんが、とても慈悲深く、裏表のない温かい方です。ただ…手はかかります。」
ただの護衛という間柄ではないのだろう。
そこまで踏み込んだ言い方ができるのはそこまでの信頼関係があるからだ。
コイツらがほの花のそばにいることで恋人の男はさぞかしヤキモキしているのだろうと踏んでいたが、逆に安心しているのかもしれない。
「ほの花の柱の男も苦労が絶えないだろうな。不憫な男だ。まぁ、選んだそいつの責任だけど。」
「…えと…、ご存知で?」
ああ、そう言えばあの女は頑なに隠そうとしていたな。柱の威厳がどうとか抜かして。
だが、この里中に既に知れ渡っているだろう。
どこの世界にも噂好きの奴らは多いし、特に悪口でもなければめでたい話題なのだ。
隠すこともないだろうに。
だが、コイツはほの花の護衛とやらだ。
口止めをされていたのか、俺が知っていることに酷く狼狽えている様子。
「知ってるも何も…もう里中に知れ渡っていると思うぞ。噂は回るのが早いからな。」
事実を伝えれば、ため息を吐いて苦笑いを向けるその男。
「…まぁ、そうですよね。隠したがっていた理由も筋金入りの劣等感から来るものだし、また宇髄様を呆れさせるだけです。」
「…筋金入りの劣等感?」
あの女に劣等感なんて物があるのか?
見た目は間違いなく美人で、不可抗力で見てしまった体も…良い体していた。
男なら間違いなく悦ぶ容姿をしているのに何をそんなに劣等感を感じることがあるのだ。
しかし、男がさも当たり前かのように発したその言葉に迷いは見られない。
要するに事実だと言うことだ。