第26章 君の居ない時間※
しかしながら、何か食べなければ薬も飲めない。お釜を掴むと「お米はどこですか?」と体温計を挟んだままの彼に聞いた。
「あ?そこの戸棚の中だけど。」
「じゃあ、勝手にお台所使いますね。私もいま食材は持っていないんですよ。」
見たところ本当に何もない。
戸棚を開けてもあるのは米と僅かな調味料のみ。
塩と醤油と酒って…。
本当におにぎりくらいしかできないじゃないか。
明らかに病人食ではない。
お粥を作りたくても今度はお茶碗も見つけられない。
見たところ思ったよりも元気そうなのだから、おにぎりでもいいか…。
お米を研いで、火にかけると鋼鐡塚さんの元に戻る。
「体温計下さい。五分経ったので。」
そう言えば素直にそれを出して渡してくれるので、示している体温を確認する。
(37.2度か。確かに下がってはいそうだけど、微熱があるからもう少し薬はいるかな…。)
それを看護記録に書き留めると鋼鐡塚さんが徐に口を開いた。
「…ほの花は何ともないのか?」
「え?」
何のことを言っているのだろうか。
私が何ともない?とは?
見たところピンピンしている。
むしろ此処に来てからとむしろ此処最近は人手が増えたことで仕事が楽になって疲れもない。
意味が分からないと首を傾げて「どうしてですか?」と問えば眉間に皺を寄せて不機嫌そうに目を細めた。
「だから…!感染した俺と密室にいて大丈夫なのか?ってことだろ!」
少しだけ声を荒げてそう言われるとそっぽを向いてしまった鋼鐡塚さんをぽかんと見つめた。
これは…心配してくれているのだろうか。
あんなに偏屈な人だと思っていたが、私が逆上せて倒れたときも送ってくれたり、根は優しいのだと分かると、目尻が下がった。
「私は予防接種を打ってから来たので大丈夫です。お心遣いありがとうございます。」
「ふん、…別に。」
そっぽを向いたままこちらを見ることはなかったけど、薬の調合をし始めた私をチラリと見て大人しく横になった。
あれほどまでに治療を拒否していたのに、昨日よほど苦しかったのだろう。
観念したかのように私のやることを全て受け入れてくれるその様子に胸を撫で下ろした。