第26章 君の居ない時間※
陽の光が眩しく感じてゆっくりと目を開けると其処には大好きな宇髄さん……の姿はなく、見覚えのある程度の黒髪の男性。
こちらをじーっと見つめているその表情からは呆れたような感情が読み取れた。
あ、そうだ…、鋼鐡塚さんのところで泊まり込みの看病を…。
鋼鐡塚さん…?
鋼鐡塚さん!?!?
「おわああああっ?!だ、大丈夫ですかぁああ?!」
「っう、っっるせぇなぁ!?お前が朝っぱらから大丈夫かよ!」
「え!あ、いや…す、すみません…!ね、熱計りましょう!」
慌てて体を起こすと体温計を取りに行き、彼に渡す。
点滴はとうに終わっていて、それもすぐに取り外す。部屋の長押と言うのは割に高い位置にあるのだが、こういう時背が高くて助かった。
一般女性であれば届かなかったかもしれない。
そう思うと一時期この背丈のせいで男の人に見向きもされなかったことが良い思い出にできる。
まぁ、いま大好きな人がいるのだからその時点で良いのだけども。
鋼鐡塚さんは受け取った体温計を腋の下に挟むと軽々と体を起こしてその場に座った。
「あの、体調は如何ですか?」
「もうだいぶ良い。少し息苦しさはまだあるけど、呼吸もずいぶん楽だし、熱は多分…ないと思う。」
「そ、そうですか…!良かった。」
点滴を片付けながら、ぐるりと部屋の中を見渡してみると本当に刀鍛冶に必要な物以外殆どない。
かろうじてお米を炊くお釜はあるようだけど、あとは片手鍋が一つあるだけ。
そもそもどうやって栄養を摂っているのだ。
体温の測定が終わるまで五分程かかるので失礼ながら部屋の中を物色し始める。
「なんだよ。金なら箪笥の中だ。」
「お金なんて取りませんよ!!」
いくらなんでも物取りではない。
金目のものを物色していたわけではなく、何か食べるものはあるのかと思っただけだ。
「食べ物はないんですか?栄養を摂らなければと思って…。」
「あー……米ならある。」
「どうやって暮らしてたんですか…?」
「腹減ったら買いに行ってた。男の独り身なんてそんなもんだろ。」
そう言う物なのか。
鋼鐡塚さんがおいくつなのかは知らないが、周りには妻帯者が多かったし、独身の男性の暮らしぶりをしっかりと見たこともなかったので物珍しくて興味津々だった。