第26章 君の居ない時間※
昨日まで死ぬほど怠かったと言うのに嘘みたいに体が軽く感じた。
天井はいつもの自分の家のもの。
何も変わらないこの風景にほっと安心した。
家じゃないと寝られないというわけではないが、此処に居られることには感謝しかない。
あの変な女のおかげ…か。
はぁ…と息を吐くが息苦しさもだいぶ良くなっている。
鬼殺隊の当主が送り込んでくるだけの薬師なだけあるということか。
ふと横を見ると、この家には似つかわしくない女がスヤスヤと寝ていてビクッと体を仰反らせた。
「?!?!ッッ、…」
おい、こんなところで無防備に良く寝れるな。
本当に隙だらけの女だ。
病人相手でこちとら襲う気もないが、目元しか見えていないのに美しいと分かる彼女に目を逸らした。
本当にコイツの恋人が不憫だ。
薬師として当然のことをしたのかもしれない。
それも呼吸停止した俺を助けて、意を汲んでこの家に留まらせてくれた。
医療者としてもその考えに舌を巻くが、何より他人のことにここまで一生懸命になれるのはコイツの元からの性格だろう。
それを咎めることができないから、余計にヤキモキするだろう。
(あんなに所有印を付ける理由も肯けるな…。)
断じてコイツを抱く気はないが、綺麗な寝顔は目の保養だと感じた。
ジッと見入れば急に目尻が下がり、幸せそうに笑った。口元は覆われてて分からないが、その笑顔があまりに可愛くて思わず目を逸らした。
しかし、コイツの口から発せられた言葉にすぐに正気に戻される。
「…天元…、だいすき…。」
ああ、こんな無意識下でもその男を想い、見せる笑顔はこうも可愛いのか。
無防備に笑い、甘えられてしまえば好きにならない男の方が少ないかもしれない。
「…骨抜きにされたんだろ?お前。」
此処にはいないほの花の恋人という柱の男に問いかけた。
柱と言うことは鬼殺隊を支える大切な役回りだ。
命をかけて戦っている最中に、コイツのことを手放せなくなって、恋人にしたということだろう。
コイツらの仲を壊すつもりもないし、寝取るつもりもないが、"目の保養だ"と言って、俺はほの花の寝顔を見つめ続けた。
ほの花の目が覚めるまで。