第26章 君の居ない時間※
鋼鐡塚さんは肺の音を聞く限り、肺炎になってしまってはいたけど、まだ若くて健康なのもあり、抗菌薬と解熱剤を使えば翌日には熱も下がって来ていた。
重症ではあるが、回復力があったため恐らくこれ以上の悪化はしないだろう。
点滴を全て落とし終えると、脱水症状にならないように生理食塩水に変える。
そこまで終えると時計を確認する時刻は丑三つ時。
自分も仮眠を取らなければと思い、外を見ると真っ暗闇が広がっていてブルっと身震いする。
生温かい風が吹く外は不気味で、思わず扉を閉めた。
よく考えたら舞扇も戻っていないし、今は外で寝たりしたら流石に怖い。
鋼鐡塚さんの家は宇髄さんの屋敷に比べると狭いし、自分が寝られるところは…と探してみると彼が横になっているところの隣に少しの空間があるのみ。
仕方なくそこに横になると口を覆った布を整えて彼に背中を向けた。
規則正しい寝息が聞こえてくると、疲れていたのかあっという間に睡魔に襲われる。
早く宇髄さんに抱きしめられて寝たい。
彼の腕の中は本当に温かくて、安心できる。
漏れなく押し倒されることが多いのだが、それもまた今となっては楽しみだったりもする。
首に付けられた赤黒い痕だけは物凄い存在感をかなり長い間放っていたが、ついに消えてしまった。
あれほど付けられることを嫌がっていたというのに結局、消えてしまえば寂しくてたまらない。
あの痕が私を守ってくれているようにも感じていたから。
懐には再びカサッという音が聞こえた。
ああ
でも
私はいつだって彼に守られている。
痕がなくなるのを見越していたかのように今度はこんな書が何枚も送られて来て、ただの紙なのにまるで私を守ってくれてるようにも感じる。
これを背中に貼ることは…流石にないけど体中には彼を思い出すものに溢れてる。
新しく買ってくれた花飾り
耳には白い花の耳飾り
懐には彼の書
大好きな宇髄さんを感じることができる物が私を守ってくれる。
これに感染対策としての効果はない。
でも、私の心を守ってくれる大切なそれを見に纏い、こんなところで熟睡など出来るはずがないのに朝日が差し込むまで寝入ってしまった。