第26章 君の居ない時間※
夜になっても嫌な予感は治まらず、窓の外をぼーっと眺めていた。
寝ずの看護も人数が増えたこともあり、この日の私はその担当を外れていて、朝までゆっくりと寝れる日だった。
でも、鋼鐡塚さんのことが気になって仕方がない。
夜になると熱が上がる人も多い。
彼は大丈夫だろうか?
「ほの花様?寝ないんですか?せっかく今日はゆっくりと眠れる日なのですから早めに休まれてはどうです?」
後ろから隆元に声をかけられてゆっくりと振り返ると壁掛け時計が目に入った。
時刻は10時だ。
今言って帰ってこれば一時間程度で帰れるだろう。日を跨ぐまでには帰って寝れば十分に睡眠は取れる。
やはり一度だけ見てこよう。
薬を処方してから既に12時間経っている。
普通ならば一時間ごとに薬の効果の確認や検温や聴診をしたりするのだから遅すぎるくらいだ。
「…隆元。私、ちょっと出かけてくる。」
「はい?!もう夜ですよ?!どこにいくつもりなんですか?」
「鋼鐡塚さんの家!昼間、話したでしょ?明日行くつもりだったけど、どうも気になるの。何にもなかったらすぐ戻ってくる。正宗と大進にも伝えて。」
私はその場で防護服を着ると口元を覆っていた布をもう一枚追加して、明日用に整えてあった薬箱を持った。
「私もお供します…!」
「いや、隆元は今日、寝ずの番があるでしょ?ゆっくり休んで。私は言って帰ってきても寝れるから。二人に伝えておいて。無茶はしないから。」
「っ、ほの花様!」
私を呼ぶ隆元の声を背中に浴びながら、玄関を飛び出すと全速力で鋼鐡塚さんの家に向かった。
鍛錬をしていた甲斐がある。
多少の全力疾走では息は上がらない。
肺が炎症を起こしているときは、もっともっと息苦しい筈だ。
溺れるほど苦しいと聞いたことがある。
炎症を起こして呼吸不全を起こしてしまえば助かる可能性が極めて低くなる。
あの患者さんのように…。
鋼鐡塚さんに何ともなければ、それでいい。
何とも無くて良かったで済めばいい。
だけど、医療者が異変に気付けなければ何の意味もない。
真っ暗闇の中、山を駆け抜けていくと、昼間と打って変わって冷たい空気が漂っていた。