第26章 君の居ない時間※
勝手に居間に薬を広げ出す私をチラッと見るが、そこは咎められない。
薬を調合するのは構わないというわけか。
「正宗、薬の調合するだけだから外で待ってていいよ。」
「…承知しました。」
此処に複数人いても感染の危険が増えるだけだし、少しでも罹患する確率は低い方がいいだろう。
無言で私の舞扇を研いでいる鋼鐡塚さんと無言で薬の調合をする私。
確かに利害は一致してるのかもしれない。
でも、やはり偏屈なのは間違いなさそうだ。
人と関わるのが嫌なのだろうか。
そんなことするくらいならば此処でのたれ死んでいた方がマシだと背中が語ってくる。
「…お前さ、何で鬼殺隊に入ったんだよ。どこかの令嬢だろ。」
話しかけるなという空気をバシバシと出していたくせに意外にも声をかけてきた鋼鐡塚さんに顔を上げるが、こちらを見てはいなかった。
視線を薬に再び向けると聞かれたことに答えようと言葉を紡ぐ。
「令嬢ではないですが、里が鬼に全滅させられて、私と彼らだけ生き残りました。産屋敷様を頼って来たのですが、音柱様の継子にさせてもらったのでどうせなら鬼殺隊に入ろうと思い、最終選別を受けました。」
「ああ、お前の恋人っつー宇髄天元だろ?里の奴らがその話題で持ちきりだった。」
「んなっ…!?!?」
あの二人には箝口令敷いたが、やはり噂というのはあっという間に回るもので、鋼鐡塚さんまで知っていると言うことはもう里中にこの話が知れ渡っているのだろう。
それなのに何故宇髄さんはあんな書を送りつけてきたのだろうか。
最早あんなものを背中につける必要性など皆無だ。
「あ、あまり人に言わないでください…!宇髄さんは柱なんです!柱の威厳が…!!」
柱が一般隊士と交際してるなどという噂が出回ったら宇髄さんを見る目が変わってしまうかもしれない。
元々は三人の奥様を大切にしていた方だ。
それを知ってる人は私との間に不義理があったと思われるかもしれない。
そんなの駄目駄目!!
迷惑をかけるのだけは嫌だ。
ただでさえ鬼殺隊の間では知れ渡っていることで、私も少なからず穿った見方をされることもある。
それでも鬼殺隊の中では柱の威厳は保たれてるし、一安心していたが一度外に出れば中途半端な噂が宇髄さんを貶めるかも知れない。