第26章 君の居ない時間※
宇髄さんの書を背中に貼ることは勿論無かったが、三日に一度来る手紙には"予備を入れといた"と毎回のように"触るな俺の女"という書が入っている。
薬品に記載されてある"触るな危険"じゃないんだからこの書き方は端的すぎるじゃないか。
だけど、今は直ぐに宇髄さんに会えるわけでも無いし、手紙が来たら何であろうと嬉しいには変わりない。
もらった書も毎回綺麗に折り畳み、懐に入れるのも日課になってきた頃、しのぶさんから大量のワクチンが送られてきた。
いよいよ終息に向けての最終段階に入ったと言える。
高齢者から順番に予防接種を受けてもらうことを鉄珍様には伝え済みだ。
注射自体は私でなくとも加藤先生と坂井さんもできるので飛躍的に早く済むだろう。
此処に来て三週間目に突入したところ。
そろそろ舞扇を取りにいきつつ、予防接種をしに鋼鐡塚さんのところへ行こうと思っていたので正宗に声をかけた。
「ねぇ、正宗。鋼鐡塚さんのところに舞扇を取りに行くから念のため付いてきてくれない?」
「ああ、そう言えばまだ持ってきてくれてませんね。わかりました。お供します。」
隆元と大進には診療所の予防接種と残り僅かだが入院している患者さんの看護の手伝いをお願いして、私は薬箱を持って鋼鐡塚さんの家に向かった。
「お家はご存知なのですか?」
「鉄珍様に聞いておいたの。予防接種の許可を頂く時に。」
舞扇が戻っていなかったのを伝えると二つ返事で教えてくれた。
鉄珍様から見ても刀のことだと融通が効かない人だと言っていたが、細かい傷がどうの…と怒っていたので物凄く丁寧に研いでくれているのかもしれない。
私も薬のことになると没頭して時間を忘れて調合や調べ物をしていたりするのだから、あまり認めたくは無いが鋼鐡塚さんと似た性質なのかもしれない。
だが、明らかに私よりも変な人だ。
教えてもらった住所の通りに向かうのに住居が密集しているところより離れてどんどん山奥に入っていくことからも言える。
こんな山奥で一人で暮らしているなんて偏屈な人間だとしか言いようがないのだから。