第26章 君の居ない時間※
此処で逃げたところで、全員の顔と名前が一致しているわけでも無いだろうし、今此処でこんなに狼狽えなくてもいいか。
口元の布を整えて真っ直ぐに二人を見ると意を決して言葉を選ぶ。
「え、と…あの、宇髄、さんという方です…。」
「宇髄さん…?確か柱の方で同じ苗字の方がいましたよね?凄い同性なんですね!!」
一致してるぅぅぅーーーーー!!
いや、まぁそうだよね。
だって柱だもん。
流石に柱全員の顔と名前は一致してるよね…。
鬼殺隊の中でも神的な立ち位置だもん。
それなのに…
めちゃ普通の私が恋人なんて…恥ずかしい、かな?あとで手紙で謝っておけばいいか…。
そう思い、興奮している加藤先生と坂井さんをもう一度見つめる。
「そう、なんですよ。あの、私の恋人…宇髄、天元さんなんです…。」
「「……え?」」
目を彷徨わせながらも何とか真実を伝えるが、やはりひょっとこのお面で表情は分からない。
でも、こちらをむいたまま固まってしまった彼らに居心地が悪い。
何か言ってくれないだろうか。
一体この間は何の間なのだろう?
"えー?嘘でしょ、こんな女が音柱様の恋人?最悪ー!"の間だろうか。
いっそ、冗談でしたー!あははっ!と言ってしまおうかと思った時、こちらに一歩踏み出した坂井さんに釣られて、一歩後退した。
「………ほの花さん、音柱様の…恋人なの?」
「ご、ごめんなさい、そ、そうなんです…!不相応だとは思ってるんですけど…!」
「す、………っごーーーーい!!やだぁーー!素敵ーー!!美男美女じゃない!!」
「…え?」
突然歓喜の声を上げる坂井さんに目を見開いたまま、今度は私が固まる羽目になった。
これは…"最悪〜!"のくだりではないことだけは分かる。
認めてくれているかどうかは分からないけど、取り敢えず宇髄さんの認知度が素晴らしく高いことで下手したら見せ物になる可能性があることをこの時覚悟した。
言わなければ良かったかもしれない。
今度宇髄さんが此処に来た時、恥ずかしい想いをすることになるかもしれないかと思うと若干申し訳ない。
やはり手紙で先に謝っておく方がいいだろうな…。
盛り上がってしまっている加藤先生と坂井さんを見て私は肩を落とした。