第26章 君の居ない時間※
宇髄さんは三日ごとに来る定期便で必ずお手紙をくれた。
それが嬉しくて私も返事を書くのが日課になっていたが、ある日手紙と一緒に可愛い紫陽花の花びらが入っていた。
庭に咲いたものを一弁入れてくれたらしい。
感染源となるといけないので私は送れないがその花びらを日光に当たらないところに丁寧に置いて乾燥させたら宝物にして持ち歩こうと決めた。
こんな花びら一枚でも私の宝物だと言えてしまう宇髄さんの存在感は凄い。
しかし、十日も過ぎた頃にふと思い出した。
「……私の、舞扇…。」
「あ…!そういえばまだ戻ってきてませんね。」
「いま思い出した。まだ時期的には良いけど…、予防接種のワクチンが届いたら予防接種がてら取りに行ってこようかな。なんか偏屈な人だったから来てくれ無さそうだし…。」
そう。うっかりすっかり…とはこのこと。
宇髄さんからお手紙が来たことで浮かれた私は彼との間に起こったことも最早記憶の彼方へ消し去られていて、流石の自分も顔を引き攣らせた。
言わなければバレないし、わざわざ言うことでも無いと思うけど、変に言わなければやましいことがあるから隠しているみたいでそれも何かちがう…。
何とも思ってないからこそ、普通の会話のように言える筈だ。
恋人との文通を楽しんでいる幸せ真っ只中の今はちょっと言いたくない。
まだこの幸せを噛み締めていたいのだから帰ってから言えばいいだろう。何てことないことだ。
──温泉にて猿かと思って捕まえようとしたら人だったことに驚いて、逆上せた上にぶっ倒れて人工呼吸して蘇生されて助かったけど、裸見られました──
何だ、このツッコミどころ満載な出来事は。
あの時は無我夢中だったけど、流石に馬鹿で阿呆な私でも分かる。
冷静に見てみると…
(…何やってんの〜、わたし。)
本当に後ろ指差されるような内容を過ぎて目も当てられないが、此処までのことをしてしまったのだからこそ、文通を楽しみたいのだ。
万が一、嫌われた時のために宇髄さんの愛を十分に感じさせてもらいたい。
宇髄さんが自ら奥様たちとヨリを戻すわけでもなく、ただ嫌われて捨てられるなんてことはどうしても避けたい。