第26章 君の居ない時間※
宇髄さんからもらった手紙はまるで御守りのように懐に忍ばせると此処にはいない彼に守られているような感覚になった。
顔を見られないということでここまで精神的につらい思いをすることになるとは思いもしなかった。
でも、彼の手紙は思いもよらぬ効果があったらしく…
「また…ほの花様が笑ってくれて良かったです。」
「…え?私、笑ってなかった?」
突然、正宗たちから告げられたことに私は目を見開いた。
それもその筈、だって私は笑っていたつもりなのだから。患者様に対しても笑顔を向けられていなかったのだろうか?
「全然!もうなまじ顔が整っていらっしゃるから人形が動いてるみたいで怖かったです。」
「ちょ、そ、それ言い過ぎでしょ…?!お化けじゃないんだから!や、やめてよ!」
「いや、でも…本当に怖かったです。宇髄様って遠隔でもこんなことできるんですね。凄すぎます。感謝ですね。ほの花様も宇髄様にだけは足を向けて寝たら駄目ですからね。」
そう言って正宗は穏やかに笑ってくれる。彼の話を聞いただけでも確かに宇髄さんは凄いかもしれない。
私の心をこうも簡単に救ってくれるのは彼だけ。笑っていなかったという感覚がないのも驚いたけど、ひょっとしたら患者様にも怖い想いをさせてしまったかもしれないのだから今日からなるべく笑って過ごそう。
幸いなことに重症の患者様も一人減り、また一人減り…とついに0になった。
軽症の方はたまに運ばれてくるが、対症療法で早期回復する人ばかりだし、何よりも一週間も経てばこの診療所の医師と看護師の方が復活したことで治療と看護は格段に楽になった。
ホッとしたのも束の間、完全に終息をさせるためにはやはり予防接種をするのが必至だ。
私は定期的に手紙のやり取りをしているしのぶさんにことの次第を話して、里の人たちの人数分のワクチンを作って送ってもらうことにした。
此処では設備が整っていないい上に、私一人では時間がかかり過ぎる。
忙しい中、申し訳ないと思いつつ彼女を頼ることで一ヶ月以内での終息を目指すことにしたのだ。