第26章 君の居ない時間※
結局、気もそぞろで警護を終えて、いつものように先に風呂に入って体を清めて部屋に戻ろうとすると既に起きていた雛鶴に声をかけられた。
「天元様。おかえりなさいませ。」
三人の中でも一番早起きな雛鶴が任務後に出会すことは多い。
振り返り「ただいま」と言えば何やらニヤけている彼女を不思議そうに見つめた。
「どうした?」
「ふふふ。お部屋に天元様に贈り物を置いておきました。あとで見てくださいね。」
「贈り物…?」
元嫁ということもあるので、今だってねだられれば何でも買ってやる。それがコイツらに対する贖罪というわけではないが、大切な家族であることは変わらないし、変わらずに家事もしてくれる三人に少しでも労いのためでもある。
関係性は変われど、普段の生活は殆ど変わらないと言って良い。
だが、彼女から贈り物とは?
誕生日でもなければそういうことはなかったので首を傾げるが、ニコニコと微笑んでいる雛鶴を見て笑顔を返す。
「はい!今の天元様には一番嬉しい贈り物だと思いますよ。では、また朝餉の時にお呼びしますね。」
そう言うと台所に向かって行ってしまった雛鶴の姿を見送ると、自分の部屋への道に向けて足を進める。
俺が一番嬉しい贈り物?
こんな部屋に置いといたと言うことは食べ物じゃねぇよな。
「…つーことはフグ刺しってわけじゃねぇか。」
あんなにも気もそぞろだったと言うのにいざ"贈り物"と言われてしまうと物品を想像してしまってそれに考えが行き着くことはない。
だから襖を開けて部屋の中に入るとすぐに布団の上にこれ見よがしに置いてあった白い便箋を目の当たりにして、漸くその存在を思い出す。
気もそぞろだった。
間違いなく此れを待っていた。
でも、来ないかもしれないと思っていたから喜びも一入で、慌ててしゃがみ込み、それを引っ掴むと宛名を確認した。
表には"宇髄天元様"
その字を見るだけでドクンと心臓が跳ねた。
誰なのか簡単に分かってしまう俺は大概"ほの花馬鹿"だと言う自覚はある。
恐る恐る裏を返すとそこに書いてあった名前にニヤける顔を抑えることはできなかった。
「…ほの花…。」
そこに書いてあったのは愛する婚約者の名前。
"神楽ほの花"