第26章 君の居ない時間※
気の利いた言葉って何なのだろうか。
ほの花の役に立ちたいと思ったが、結局のところ気の利いた言葉自体何なのか分かっていないのに役に立つことなんてできまい。
格好付けて役に立ちたいなんて思うよりも自分の気持ちを書いた方が遥かに俺らしいだろうが。
そこまで考えが纏まれば、空に向かって手を伸ばしてみた。
「…ほの花、頑張れよ。…愛してる。早く…会いてぇな。」
そこにはいないほの花だけど、言葉にして手を伸ばせば掴めそうなほど星が綺麗で。きっとほの花も見ている気がしたので久しぶりに想いを言葉にしてみた。
そうすると不思議なくらい手紙に何を書こうか思い浮かんできたのでそのまま座卓に向かうと筆を走らせた。
先ほどまで嘘みたいに言葉が出てこなかったと言うのに急にスラスラと書き綴るそれに苦笑いをしてしまう。
それでも最後まで一度も止まることなくそれを書き終えると封をして掲げてみた。
初めて女に送る手紙がほの花相手で良かった。
彼女の"初めて"をたくさんもらってきた。
ほの花はあの糞野郎に恋文をもらっちまってるから初めての男からの手紙ではないけど、恋人からの手紙は初めてのはずだ。
そして俺も恋人に送る手紙は初めてのこと。
反応を考えるだけで照れ臭い気がするが、そんな気持ちになるのもほの花を好きだからだ。
夜も更けていたので俺はその手紙を朝方に産屋敷邸へ持っていった。
三日に一度手紙を持って行くと言っていた。
と言うことは向こうの返事が来るにしても少なくとも三日以上かかると言うことか。
忙しいかもしれないし、きっとそんな暇もないとは思ったが、初めて送った手紙の返事が来ないかと普段は見に行くこともしないのに毎日毎日手紙が届かないか郵便受けを覗いている俺。
そんな姿を見て元嫁たちが不思議そうに見ていたが、三日経つ頃にそろそろ返事が来るかもしれないといよいよソワソワし出したと思ったら急に警護依頼が来て肩を落とす。
手紙は来ないかもしれないのだからそんな気を落としたところで無駄なことかもしれない。
文通なんて何が面白いのか分からないと思っていたが、好きな女から手紙が届くかもしれないという胸の拍動は情交の時とはまた違って良いと思った。