第26章 君の居ない時間※
便箋を買って帰るとちょうど虹丸が「音柱ーーッ!」と勢いよく部屋に入ってきた。
まさか任務の伝達だろうか。
手紙を書いたら一眠りしようとしていたのに。
出鼻をくじかれたことで嫌な顔を虹丸に向けたが、その内容に俺は久しぶりに胸が躍った。
「ほの花へノ伝達方法ガ決マッタ!!三日二一度、隠ニヨリ里ノ入口マデ運ブーー!伝達事項ガアル者ハ明日ノ夕方マデニ産屋敷邸へーー!!」
何という良き頃合なのか。
まさに奇跡のような好機だ。
今からしたためて、明日の朝までにお館様の屋敷に持っていけばちょうど運んでもらえるという。
手紙を書いた後に一眠りするために布団を敷くとその横に卓を持ってきて座り込んだ。
目の前には買ったばかりの真っ新な便箋。
何を書こうか。
手紙なんてものは書いた経験自体が少ないので全くもって作法など分からないし、ましてや今ここにいない恋人に当てた手紙だ。
少しは気の利いた言葉をかけてやりたい。
彼女は感染症と闘いに行っているのだ。
腕を組み天井を見つめるが、ちっともいい言葉が浮かんでこない。
ほの花の疲れが取れるような言葉って何なのだろうか。
疲れた時にどんな言葉が欲しい?
自分ならば言葉よりも抱きしめたいのだから見当もつかない。
手紙を書こうと意気込んでいたと言うのに結局は気の利いた言葉も思い浮かばず途方に暮れる羽目になるとは思わなかった。
あまりに思い浮かばないのでゴロンと布団に横になると途端に眠気に襲われた。
慣れないことをしたせいか。
いや、違う。
任務後にまだ一睡もしていなかった。
手紙を書かなくてはという使命感はあるのに、疲労から瞼はどんどん重くなっていき、知らないうちに微睡に意識を手放していた。
気づいた時には外は暗くなっていて、月明かりが照らしていた。
結局、一文字も書けていない便箋にため息を落とすと、気分転換に縁側に出る。
空を見上げれば満天の星空。
何処にいても空だけは一緒の筈だ。この空をほの花もみているかもしれないと思うと、少しだけ近くに彼女を感じた気がした。