第26章 君の居ない時間※
町へ繰り出しても感染対策は疎かにできない。
刀鍛冶の里へ行ってるのは他でもない自分の女だし、彼女の苦労を水の泡にすることだけはできない。
なるべく人との距離を保ち、口元を覆うのは忘れない。
町を歩く一般人は勿論、そんな風貌の奴らはいないが、油断はできない。
しかし、町を歩いていると同じように口元を覆っている人物が目に入った。
縦縞模様の羽織を着た黒髪の人物は見たことのある奴。
口元は見えやしないが、口角を上げるとその男に声をかける。
「よぉ、伊黒!」
俺の声に反応して後ろを振り向いたその男もまたちゃんと口元を覆っているので、少し距離をあけて隣を歩く。
「何だ、宇髄か。思ったよりも元気そうだな。」
「あ?どういうことだよ。」
「神楽が居なくなってビービー泣いてんのかと思った。」
「ンな女々しいことすっかよ!!」
泣いちゃァいねぇが、クソ寂しいって言うのは当たってるので若干ムキになって反論してしまった。これでは自分で女々しいことを認めているようだ。
ほぼ図星を言い当てられたようなものな気がしてしまい、気まずくなって目線を逸らした。
「宇髄も体調の変化はないか?」
「ああ。お前も?」
「問題ない。甘露寺も大丈夫だと言っていた。」
「そうか。そりゃ何よりだな。」
相変わらず、甘露寺と仲良いな。
これで恋仲じゃねぇんだから、コイツ我慢強いよな。俺なら速攻で自分の物にしたくなるっつーのに。
文通だけでよく我慢できるよなー。
……文通?
「あ…、なぁ!伊黒、お前と甘露寺ってまだ文通してんの?」
「なっ?は、な、何故知ってる…!?」
「ほの花が言ってたからよ。なぁ、便箋どこで買ってんの?俺も欲しいんだわ。ほの花に手紙書こうと思ってよ。」
狼狽えている伊黒をそのままに俺は目的のものをどこで買ったのかという情報を知りたくて意気揚々と話を続ける。
正直、女に手紙書くなんてしたことねぇし、便箋も買ったことない。
でも、想いの丈を言葉にしたら少しはスッキリするのではないかと思ったのだ。