第26章 君の居ない時間※
風呂から出るとまきをが「ご飯できてますよ」と声をかけてきた。
ドタドタと走ってくるこの足音は須磨だろう。
前までは此処に雛鶴を入れて、三人の嫁と俺とで生活していたこの屋敷。
いつの間にか一気に四人も増えて大家族となったわけだが、あっという間に溶け込み、そこにいて当たり前の存在となっていた。
ほの花が隣に座るのは当たり前なのに今は空席。
周りを見ても三人の元嫁達の隣にはあの護衛三人がそれぞれ座っていたのにそこも今は空席。
以前の生活に戻っただけなのにこうも寂しく、虚しいものなのか。
いつもほの花が座っている席に目を向けてもそこには使われない座布団が置いてあるだけ。
すでに三日経っていて、そろそろ慣れるかと思いきや慣れる気配はない。
日に日にほの花の存在が大きいと思わされるばかり。
「…天元さまぁ…。ざみじぃでずねぇえ…。ぐす…っ」
「いや、お前はいい加減泣き止めよ。」
須磨はこの三日間思い出すと涙が出るようで、この姿を一体何度見たことか。
しかも泣き出すと残りの二人も釣られるように涙ぐむものだから、何故そこまで…?と若干驚きを隠せない。
まぁ、コイツらにとっても家族のような存在が戦地に赴いたようなものだからそうなるのも分からないわけではない。
自分だって…考えればツラいし、ふとした時にほの花を思い出してはボーッとしてしまうのだから安易に責めることはできない。
「…あと、何日寝れば帰ってくるんですかぁ…。」
「正月かよ…。そればっかりはわかんねぇ。鎹鴉も飛ばすなって言われてるんだ。菌を媒介する可能性があるから駄目なんだと。」
「天元様はほの花さんと連絡取れなくて不安じゃないんですかぁあああ?!?!」
「そりゃ、不安だけどよ…。」
その時、そういえば…と思い出したことがあった。お館様はほの花への連絡方法を追って知らせると言っていた。
鎹鴉は無理でも、手紙であれば送ることができるかもしれない。
そこまで考えると俺は目の前の飯を掻き込み、慌てて町へ向かった。
生まれて初めて女に手紙を書くための便箋を買うために。