第26章 君の居ない時間※
ほの花が出発して三日が経った。
口元を覆いながらも鬼狩りの任務は継続していた。
もちろん感染対策とやらは万全に行い、複数人での任務であっても無駄口は一切たたかない。
少しでも感染の危険性が高まることはしない。
柱だけでなく、鬼殺隊全員がそれを意識して過ごしているのは、ほの花が指示した予防接種が着々と進んでいることと、刀鍛冶の里のスペイン風邪終息のために孤軍奮闘してくれていることが知れ渡っているからだ。
少しでも彼女の負担にならないようにと全員が同じ方を向いている。足並みを揃えることが鬼狩りのことではないということが今となっては意外だが仕方ない。
こうなってしまったものを変えることはできないのだから事実を受け入れることしかできない。
今日も任務を終えて、庭に降り立つと外にある手洗い場で手を洗いうがいをしてすぐに風呂に直行する。
外での任務は何かと気をつけなければ、この家に住んでるあの三人にも危害が及ぶ可能性がある。もちろん予防接種を受けてはいるが、念には念をだ。
「天元様?お戻りですか?」
「ああ。風呂入ってくるわ。」
「では、お食事の準備もしておきますね。」
「あー、悪ぃ。頼むわ。」
脱衣所の外から聴こえた声は雛鶴だ。
ここ数日、任務から帰ってきたばかりの時はこうやって風呂の扉越しにあの三人のうちの誰かと会話をしている。
特にそれに関しては不自由を感じていない。
それよりも不自由していることは他にある。
隊服を脱ぎ捨てて風呂場に足を踏み入れると体に湯気が纏わりついてくる。
生温かい感覚は嫌いじゃない。
むしろ昔から風呂は好きだし、なんなら趣味は秘湯を巡るくらいの温泉好き。
でも、前ほど風呂が楽しみだと思えなくなっていたのもここ数日。
あんなにも好きだったのに体を洗い、湯船に体を沈めてもどこか満たされない。
その原因など深く考えなくても分かる。
「…ほの花、元気にしてっかな…。」
頭の中から離れないのは愛おしい恋人のこと。
ふとした時に脳裏によぎるのは彼女の優しい笑顔。
感染拡大が深刻な刀鍛冶の里に行かせることがどれほど嫌だったか。
それでも行かせざるを得なかった。
俺は鬼殺隊の柱。
アイツも鬼殺隊の一員だからだ。