第26章 君の居ない時間※
「ほの花様…?大丈夫ですか?」
声をかけられたことでハッとして顔を上げると後ろで正宗達が心配そうにこちらを見ていた。
「…何かあったんですか?」
聞きにくそうにそう言う正宗に慌てて首を振る。
何もない。
強いて言うならば大好きな人から手紙をもらって張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。
名前を見ただけで号泣するなんて随分と追い詰められていたのだろう。
「…何もないよ。ただ…」
「…はい。」
「宇髄さんから、ッ…お手紙が来て、急にこみ上げてきちゃったの…。ごめんね。読んだらすぐ戻るから…。」
そう言ってその手紙を開けようとしたが、後ろから急に背中を押された。
押しているのは正宗で、後ろをチラチラと見てもニコニコと微笑んでいるだけで何も発しない。
借りていた家の前まで来ると背中から手を退けて少しだけ私から離れる。
「少しだけそこで休憩して下さい。ついでにお返事でも書いたらどうですか?お茶は…自分で準備してもらわないといけませんけど、何かあればすぐに呼びますので。宇髄様に宜しくお伝え下さいね。では。ごゆっくり。」
後ろを振り返るとそこには既に踵を返して背中を向けている正宗の姿。
気を遣ってくれたんだと分かると再びその手紙を持ち直した。
外の手洗い場で手洗いとうがいをしてから家の中に入ると、待ちきれずに玄関でその手紙を開けた。
そこには意外にも綺麗な字が並んでいるが、言葉の調子は宇髄さんそのもので心が温かくなる。
──ほの花へ
元気にしてるか?
お館様から手紙を送る方法を柱全員に伝達されたから得意ではないが、送ってみることにした。
体調崩してないか?まさかと思うが感染してないか?こちらは誰も感染せずに過ごせてる。
正直、ほの花のいない日々がこんなにも味気ないものなのかとたった数日で感じた。
早くお前に会いたいし、抱きしめたい。
お前は美人だから色々心配だったけど、いま願うのはひとつだけだ。
無事に俺の腕の中に帰ってこい。
愛してる、ほの花。
また書く。
宇髄天元──
ねぇ、宇髄さん…?
涙が止まらないよ。
どうしたらいい?
今すぐあなたに会いたい。
その腕で抱きしめて。
大切なそれを胸に抱き、私は再びそこに蹲り号泣してしまった。