第26章 君の居ない時間※
産屋敷様の手紙を折りたたみ、次の手紙を見ると後ろに"胡蝶しのぶ"の文字。
しのぶさん…!
そうだ、彼女に予防接種を全て任せて来てしまったが大丈夫だろうか。
慌ててその手紙を開くとその心配がないと分かるほど落ち着いた文字が並んでいた。
──ほの花さんへ
そちらはお変わりないですか?
言われた処方で直ちにワクチンを作って現在およそ三割の隊士に予防接種が完了しております。
今のところ重篤な副反応は出ておりません。
万が一、出た際の対処方法を聞きそびれてしまいましたのでそれだけご教授下さい。
何かあれば応援に向かいます。
ほの花さんと護衛の方々もどうぞお身体に気をつけて宜しくお願いします。
胡蝶しのぶ──
そういえば…副反応が出た際の対処法を伝えてくるのも忘れていた。
私はどれだけ忘れっぽいのだ。
こうやって助けてもらわなければ生きていけない。
しのぶさんだから一言えば十伝わっているが、他の人であればもっと事細かく伝えなければならないだろう。
私は環境に物凄く恵れていたのだ。
しのぶさんにも後で返事を書かなければ…。
副反応に関しては早々に伝えないと何かあってからでは遅い。
しのぶさんの手紙も折りたたむと、最後の一枚を見つめる。
この生活ももう五日か…。
忙しいせいかあっという間に過ぎゆく時間と何とか薬師として役に立ちたいと没頭していたせいで色々と荒んでいた気がする。
外の世界の人の手紙を見て漸くそのことに気付いた。
そして最後の手紙の裏を返してみるとそこに書いてあった名前に目を見開いた。
ああ…そうだ。
私には…強い味方がいたじゃないか。
嫌われるとか嫌われないとか
役に立つとか立たないとか
そんなこと以前に、いつだって私の一歩先を照らし続けてくれていた人がいた。
「…っ、天元…っ…。」
そこに書かれていたのは
"宇髄天元"
彼に会えないことで自分を見失っていたのではないか。
でも、会えない寂しさと恋しい温もりを思い出すとちゃんとできない気がしたから無意識に思い出さないようにしていたのかもしれない。
でも、名前を見ただけで凍りついた心が中から溶け出すように涙が溢れてきた。
その手紙を胸に抱くとその場で泣き崩れた私を正宗達が声をかけてくれたのはそれから数分後のこと。