第26章 君の居ない時間※
「ほの花さーーん!!!」
大きな声で呼ばれたので、診療所の扉から外を覗いてみると、そこにはひょっとこのお面を被った方が少し離れたところからこちらに手を振っている。
なるほど、確かにそこからなら大きな声を出さなければ此処まで届かないだろう。
「どうかされましたか??急患ですか?」
此処に来る用事を頭で考えてみても、思い浮かぶのは急患くらい。
しかし、彼は首を横に振ると手に持っている白い物をこちらに向けて掲げた。
「ほの花さんにお手紙が届いていますーー!!三通!!」
「お手紙…?あ、ありがとうございます!えと、そこに置いて石かなんかで飛ばないようにして下さい!すぐに取りに行きます!」
「分かりましたー!!」
手紙を言われた通りにその場に置くと頭を下げて去っていくその人を見送ると手紙と呼ばれたその白い紙を取りに向かう。
誰からだろう?
産屋敷様かな?
ひょっとしたら自主隔離に使うための掘建小屋の話かもしれない。
そう思い、その場で手紙を上から順番に開けて行く。
一番上にあったのはやはり産屋敷様。
後ろを返せば"産屋敷耀哉"と書いてあった。
その手紙の封を開けると彼らしい滑らかな優しい字が並んでいる。
──ほの花へ
ほの花、元気にしているだろうか。
私は君の薬のおかげで問題なく過ごしているからどうか心配しないでいい。
そちらの感染状況を一度報告をもらいたいのだが、一筆返事をもらってもいいだろうか。
日々治療に看護に調合と忙しい日々を邁進していることだろう君に仕事を更に増やすことになるのは胸が痛い。
時間が空いた時で構わないので宜しく頼みます。
ほの花も君の護衛達も無事に帰ってくることを心から祈っている。
産屋敷耀哉──
そうだよね。そろそろ報告をしなければいけない頃だ。無我夢中で此処まで走ってきたが、重症の人が奇跡的に回復していき、残りの一人も熱さえ下がれば軽症の部屋に移れる。
そうすれば一度報告の手紙をしたためよう。
あのひょっとこの男性が此処まで手紙を持ってきてくれたと言うことは返事をする時も取り継いでくれるのだろう。