第26章 君の居ない時間※
「へぇ…猿だと思ったら…男性だったんですね?」
「そ、そうなの!だから驚いて体隠すために顔までお湯に浸かってたらね、逆上せちゃって意識無くなっちゃったの…。て、てへへ。」
「……てへへじゃないですよ。何してるんですか。貴女は。」
そもそも猿だと思ったら…って。
だとしても普通捕まえる前にもっと注意深く確認するだろう。
猿以外の獰猛な獣だったらどうするつもりなのだろうか。まぁ返り討ちに出来るのだろうけど。
「しかも、知らない男性に抱きついたってことで良いですか?」
「ちょ!ちょっと、語弊がある!!違う!抱きついたわけではない!!ぜ、絶対に宇髄さんに言わないでよ?!」
言わないでよ?と言うくらいだから彼女の中で少しでも後ろめたさがあるからそんなことを言うのだろう。
最早、仕えてきた側からすると馬鹿すぎて恥ずかしくなる。
「ほの花様。言わないでよと言うのは簡単ですが、もう少し落ち着いて行動して下さい。仮にも恋人がいる立場で少し隙がありすぎますよ。」
「…そ、それは…!悪かったと思う…けど。」
「正直、宇髄様が気の毒です。もう少し別に良い方がいらっしゃるのでは?と思うほどです。少しは自重して大人しくしていてください。仮にも此処にきたのは人を助けるためでしょう?ほの花様自身のことで里の方に迷惑をかけるなんて産屋敷様にも顔向けできませんよ。」
それは正論を言ったつもりだった。
ほの花様自身に危機感を持ってもらうため少しだけ厳しく言った。
しかし、こうやって厳しく言うのはいつものことで、元護衛だが信頼関係は得ていると思っていたからこそ言える。
だけど実際に彼女が何を思っていて、その時その瞬間の地雷なんて分かりやしない。
もう少し彼女の気持ちを考えて発言していたならば、止めることができたのかもしれないと後々後悔をすることになるとは思いもしなかった。
「…そうだね。ごめんなさい。気をつける。」
そう言ってしょんぼりしたほの花様の姿を見るのもいつものことで、暫くしたら元通りだと言うのも分かっていたから気にもしていなかったのだ。
もっと彼女の心に寄り添っていれば良かったのではないかと思っても遅いこともある。