第26章 君の居ない時間※
鋼鐡塚さんは私たちが借りている家の前まで送ってくれると「じゃあな」とだけ言って去っていった。
折角会えたと言うのに舞扇のことも聞けずにいたことに家の中に入った時に気づいたが、追いかける気力もなかったし、何よりもう出来れば会いたくなかったのでそのままにした。
今更武器を変えたら戦い方をまた変えなければならないため難しい。
そうなればあの舞扇を返してもらう他ないのだが…。
「正宗達の誰か受け取ってくれないかな…」
本音を言えば本当にもう会いたくない。
宇髄さんに対しての申し訳なさもありつつも、私自身真っ裸を見られた挙句、人工呼吸をしてもらった相手とどう顔を合わせたらいいか分からない。
なんとも思ってないのは勿論だし、不可抗力なのも理解しているが、頭を抱える案件だと言うこともまた正しい解釈だろう。
履物を脱いで、居間に向かうと既に正宗に声をかけられた。
「…ほの花様っ…!良かった…。」
あれ?正宗は確か寝ずの番を診療所でしていたはずでは…?と不思議に思ったのは一瞬だった。
首を傾げながら「どうしたの?」と答えれば途端に厳しい顔になった彼に少しだけ怯む。
「どれだけ長風呂してたんですか!もう三時間が経ってますよ?!心配したじゃないですか!」
「……え?!嘘!?ご、ごめ…!か、患者さん急変なかった?!」
確かに気を失っていたのは間違いないが、そんなに時間が経っていたなんて思わなかった私は正宗の言葉に狼狽えた。
「…幸い、急変はありませんでしたけど、こんな時に長風呂で連絡が取れないなんてことやめて下さい。」
「ごめんなさい…。ちょ、ちょっと…寝ちゃって…?」
「寝た?!ね、寝てたんですか?!温泉で?!はぁ?!危機感なさすぎじゃないですか?!外ですよ?!家のお風呂じゃないんですよ?!」
正宗の後ろで大進までも眉間に皺を寄せてこちらに睨みを効かせている。
後退りもできずに二人を交互に見ることしかできないが、本当のことを言おうか迷っていた。
言ったら言ったでこの後、また同じことを言われて怒られる気がしてならないからだ。