第26章 君の居ない時間※
終わった。今度こそ本当に終わった。
最早浮気したと言われてもおかしくない。
こんなに絶望していると言うのに隣を歩いている人の表情を窺い知ることはできない。
何故ならひょっとこだから!!!
それを見る度に"馬鹿にしてんの?!"とぶつけようのない怒りに襲われる。
いや、それ自体は事情があるのだろうし、咎めないけど!今の精神状態だと咎めたくもなると言う物だ。
それなのに私の神経を逆撫でするような言葉を浴びせてくる鋼鐡塚さん。いや、馬鹿ね塚でいい。こんな男は。(心の中でだけ荒ぶるほの花)
「なんだよ、お前。初めての接吻でもあるまいし、そんな落ち込むことかよ。命が助かって良かっただろうが。」
「ソウデスネ。アリガトウゴザイマス。」
いや、何なら此処で死んでいた方が良かったかもしれない。こんなことで宇髄さんに嫌われて別れることになるなんて不本意だ。
仮に別れるにしてももっと穏便に行きたい。
後腐れない方がいいに決まってるのにこれでは私が浮気したから別れたみたいな感じになる。
初めての口づけでないからいいと言う問題ではない。
何なら私は彼以外の口づけは断固拒否したいと言うほどなのに。
意識がなかったとはいえ受け入れて、尚且つそれによって蘇生をしたなんて…
"何ノコノコと生き延びてやがるんだ"
なんて思われたらどうしよう。
本当に土に埋まりたい。
でも、スペイン風邪の終息のために来たのに、温泉で水没死なんて恥ずかしすぎるし、生き延びたのは良かったのかもしれないけど…。
あああああ、もう何言ってるのか分からない。
兎に角、穴に埋まりたい。
しばらく穴に埋まって誰にも会いたくない。
「何をそんな悲観することがある。恋人の男のことを気にしてるのか?」
「当たり前じゃないですか!」
「大体、お前の命の危機にやった人工呼吸如きで怒り狂うような男はお前のこと大して大事じゃねぇから捨てちまえ。」
鋼鐡塚さんのその言葉は的を得ていて、ぐうの音も出ない。
確かに私が生きるか死ぬかの時にした行為を咎めることなど間違ってるとは思うけど…。
それでもいつも必要ないほどの独占欲を浴びせてくる彼の反応がどんな物なのか予測が出来ないなんてことが情けなくて仕方がなかった。
私の方が彼のことをよく分かっていないのかもしれない。