第26章 君の居ない時間※
髪を拭き終わって、外に出ると見たことのあるひょっとこのお面を付けた人が立っていた。
まさかまだ居ると思わなかったので驚いて一瞬後退りしてしまう。
「え?は、鋼鐡塚さん?」
「…仕方ねぇから途中まで送ってやる。」
「えええ、いや!大丈夫です!私!戦えますので!!意外に強いんです!!」
あんな失態見せておきながら今更自分は強いと言っても説得力はない。
それも分かっているけど、この罪悪感を早く拭いたくて出来れば共にいたくなかった。
自分の勝手な考えだとわかっているが、碌に目も合わせられない私を歩くように促すので仕方なく歩みを進める。
「別に何もしねぇからそんな怖がるなって。日輪刀持ってる時点で戦えるのは分かってるけど、そっちじゃなくて逆上せて倒れた上にお前一瞬息止まってたんだぞ。流石にその辺でのたれ死んでたら寝覚めが悪ぃだろうが。」
鋼鐡塚さんの言葉に、そうか、体を心配してくれてるのか…と有難い気持ちになったのは数秒だけ。
その発言の内容は自分が知らなかったものまで含まれていたのに目を見開くと彼を見つめた。
「…は?え、えと…、息止まってた?とは…?」
「温泉の中にぶくぶく沈んでいたお前を引き上げた時、息が止まってた。すぐに吹き返したけど。」
お湯の中で止まっていた呼吸が引き上げられたことでそれを吐いて呼吸ができるようになったと言うこと?一瞬、蘇生をしてくれたのかと思って怯んだが、それならば、いま立って歩くことが出来ているし、酸素が脳にいっていなかったことでの頭痛もない。
要するにそれによる後遺症の心配はないと言える。
「…えと、ありがとうございます。助けて下さって。」
「今更かよ。人をケダモノ扱いしたくせによ。浅い知識で蘇生させた俺は天才だぞ。」
「……蘇生!?えええ?!ちょ、な!何か私にしました?!」
「あ?だから人工呼吸…」
「いやああああああああ!!!!お嫁に行けなぁいいいい!!!」
それを聞いた瞬間、私の断末魔の大絶叫が里に響き渡った。
でも、仕方ないと思う。
裸を見られた上に更に人工呼吸という行為だといえど、口づけをしたことには変わりないのだから。