第26章 君の居ない時間※
気が付いたら綺麗なお月様と星が見下ろしていて、宇髄さんもこれを見てるかなぁなんて思って首を横に向けると黒々とした髪の毛が目に入り、茫然とした。
え、ちょっと待って。
どういう状況?
この人も裸で、私も裸…だけどなんかタオルが乗ってる。
まさかなんかした?!いや、そういう感覚はない。
え??でもこの状況って…?!
や ば く な い ? !
私はワナワナと震えながら、声の限りの悲鳴を上げた。
「ひゃああああああああっ!!!!け、けだものーーーー!!」
この時の私はもうこの人に何かされたのだと思い込んでいて、いや、状況が状況だし、そう思うのも仕方ないと思う…が!確かにこの人からしたらいきなりケダモノ扱いは納得できなかったことだろう。
「てめぇ、誰が助けてやったと思ってんだ!!逆上せてぶっ倒れてるんじゃねぇ!」
「…な、っなっ!え、…?助けた?え?」
そう、まさか。この人に助けられたなんて思いもしなかったのだから。
そう言われれば…何で私は寝てたんだ?とそもそも論に立ち戻ると、漸く彼の言葉が頭に入ってきた。
"逆上せてぶっ倒れてるんじゃねぇ!"
そうだ。確かに私は体が熱くて熱くて…。最後に感じたのは背中にお湯の感覚。
要するに背中から再びお湯の中に倒れ込んだのだろう。
と言うことは…この人の言ってることは本当で、助けてくれたと言うこと?
そこまで頭が回ると今度は顔面蒼白だ。
助けてもらっておきながらケダモノ扱いした挙句に失礼な物言いをしてしまった。
「も、申し訳ありません…!!ありがとうございました!!」
「全く失礼な女だ!!あんたみたいな女を恋人にする男の気が知れねぇ!!」
「む…、そ、それは関係ないじゃないですか!」
「いーや、あるね!その男は見る目がねぇ!あんたの見た目の良さに釣られた頭が空っぽな男に決まってる!!」
私のことを馬鹿にするのは我慢できるけど、宇髄さんのことを頭空っぽって言われて、またまた頭に血が上った私はムキになって彼に言い返すことになってしまった。
しかし、山の中の温泉だ。売り言葉に買い言葉の悪口合戦を聞いていたのは空の月と星だけだった。