第26章 君の居ない時間※
ぶん殴って起こしてやろうと思ったがよく見ると首から胸元にかけて夥しい量の所有印が残されていて、この女が知らない誰かに愛されていることを知る。
此処に来た時にともに連れ出った男たちとはそういう雰囲気は感じなかったから恐らく違う男だろう。
要するに此処にくるために暫く会えなくなるからその男が虫除けの意味も込めてこんなに付けてあるのは簡単に予測ができる。
まじまじと体を見てしまうと申し訳ない気分にもなったので、自分が持ってきた大判の手拭いを体にかけてやった。
「…まぁ、こんなに隙だらけの女…。心配になるわな。」
何の縁もゆかりもないが、呑気に寝ているこの女が起きるまで仕方ないから此処にいて誰かに襲われないようにしてやるか。
あんなにも愛の証を刻み込むような男だ。
この女に何かあれば里に来て、全員を尋問するかもしれない。
そうなりゃその方が遥かに面倒臭いというものだ。
体を見ないように背中を向けるとその場に止まり空の月を見上げた。
すーすーという寝息が自分もまた微睡に引っ張られそうになったが、こんなところで共に寝るわけにもいかないので必死に瞼を上げる。
しかし、一度下がりかけた瞼は鉛のように重く、容易に上げることも出来ずにそのまま受け入れてしまった。
護衛のような気分でいたのに自分が寝てしまったら元も子もない。
それに気づいたのはデカい声であの女が叫んだ時だった。
「ひゃああああああああっ!!!!け、けだものーーーー!!」
ケダモノ…?
けだもの?
はぁ?!誰がだ?!
微睡の中で聞こえた悲鳴と聞きづてならない言葉に思わず立ち上がった。
「何だと?!この糞女!!!」
酷い言葉を投げつけるも目の前には誰もいない。
ああ、そうだった。あの女を見ないように背中を向けていたのだと気付き、後ろを振り返ると長椅子の後ろに隠れて大判の手拭いを投げつけてきたその女に眉間の皺が寄る。
「てめぇ、誰が助けてやったと思ってんだ!!逆上せてぶっ倒れてるんじゃねぇ!」
「…な、っなっ!え、…?助けた?え?」
…コイツ。女じゃなかったら間違いなく今ぶっ飛ばしていた。
隙だらけなのもやばいが、単純に物凄い馬鹿だ。