第26章 君の居ない時間※
──バチャーーン
という音とともに水飛沫が見えた。
俺の打った舞扇を携えた女がこの里にいることは知っていたが、まさかこんなところで会うとは思うまい。
刀に関してはやり始めるとやり続けてしまうのでその前に身を清めようと温泉に浸かりに来たが、まさかその女と再び会うことになろうとは思わなかった。
しかも、裸で。
女とこんなところで会うなんてお互い最悪と言って良いだろう。
男ならば下手したら風呂を覗かれたなんて言われることが関の山だ。
しかし、今回は自分の方が先に入っていたわけで断じてあの女の裸が見たくて入ったわけでも何でもない。
確かに少しばかり見た目が良い分、そういう被害に遭う確率は高いのかもしれないが、そんなことで疑われたらたまったもんじゃない。
あんなクソガキに興味はない。
顔を真っ赤にして、「もう出ます」と言って、踵を返したあの女にホッとしたのも束の間、水飛沫が上がったことで嫌な予感がした。
遠目でチラッと飛沫が上がった先を見つめるぶくぶくと空気の泡が見えた。
まさかとは思うが逆上せてぶっ倒れたとか言わないよな?
だが忽然と姿を消したその女に嫌な予感が過ぎる。
仕方なく湯煙の中目を凝らしながら脱衣場に向かう途中に足で何かを蹴ってしまった。
石とか硬いものじゃない。間違いなく人間の肉の感覚。
「…おいおい、最悪だな…。」
仕方なくその女であろう物体を引き上げるとやはりソイツで。
真っ赤な顔をして目を回しているが、やはり容姿は美しい。
仕方なく担いで一旦、温泉から出ると長椅子に横たえてやったが、今度は温泉を飲んじまったのか息をしていないことに気付く。
「面倒すぎるだろ、この女…。」
慌てて浅い蘇生知識を奮い立たせると顎を上げて鼻を摘み口から直接空気を送ってやる。
一度
二度
三度
四度
五度目で漸くゴホッと水を吐き出して咽せ込んだその女。これで解放される…と思い、退散するために立ち上がると目を覚ますどころかすやすやと寝息を立て出すその糞みたいに呑気な女にワナワナと怒りが込み上げてきた。