第26章 君の居ない時間※
嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょ?!?!
先ほどはひょっとこのお面をかぶっていたから気づかなかったが、そう言われれば声が似ているような気もしないでもない…。
では、本当にこの人が蛍ちゃんもとい、鋼鐡塚蛍さんで、私の担当刀鍛冶で……それよりももっと大事なこと……
男の人!!!!
やばいやばいやばい…。
此処にいないあの人の般若のような顔が頭から離れない。
「…ええ、えと…ほ、蛍ちゃん…。」
「誰が蛍ちゃんだ!!あのジジイに聞いたんだな?そういえば、テメェ!!あの綺麗な舞扇よく見たら細かい傷がめちゃくちゃ入ってたぞ?!ふざけやがってあの舞扇作るのに俺がどれだけ苦労したかわかってんのか?!この変態女がぁ!!人の風呂を覗きやがって!」
「な、?!の、覗いてません!!鉄珍様がこの時間は人払いをしてあるから入って良いって…!知らなかったんです!そんな…!人がいると思ったら安易に入りません!!こんな非常事態に人と近づくようなことしません!!」
あまりに酷い物言いにポコスカと叩きたくもなったが、上半身をお湯から出せば体が見えてしまうし、見せてしまったのならば…宇髄さんに監禁されてしまうのでは…!?
しかし、私の言葉に少しだけ狼狽えた鋼鐡塚さんは少しだけ目を逸らした。
「ちっ…そういうことか。俺は知らなかったんだ!!だから俺は悪くないぞ?!俺が入ってるところをお前が後から入ってきたんだ!」
どうやら鉄珍様から了承をもらってることを知り、少しだけ罪悪感に駆られているようだ。
でも、言ってしまった言葉は消えない。
私は口を尖らせながらじーっと睨みつけてやるが、だんだんとこの温泉の温度に逆上せてきた。
もう出よう。
ゆっくり浸かる気分でもなくなったし、感染の危険性があることは避けなければいけない。
「…じゃあもう出ます。すみませんでした。」
口元まで体をつけた状態で脱衣場まで向かうが、熱い。
もう熱くてたまらない。
恥ずかしさの熱とお湯の温度も相俟ってもう体から火が吹き出しそうだ。
背中に視線を感じるがもうそんなことも気にしている余裕もなく、そのままの状態で何とか端まで到着するとやっと立って、上がろうと思ったのにぐにゃりと歪んだ視界と背中に再びお湯を感じた。