第26章 君の居ない時間※
「ほの花様、代わりますよ。休んでください。」
正宗が戻ってきたようで診療所で声をかけられた。風呂上がりで若干暑そうだが体調の変化はなさそうだ。
「ありがとう。寝ずの番するから順番に二時間ずつやりましょう?そうすれば一人六時間は寝られるわ。」
「そうですね。我々も先ほどその話をしていたんです。では、まずは私が此処でみていますね。急変があればほの花様を呼べばいいですか?」
「うん。よろしくね。じゃあ、私は温泉行ってくる!」
「温泉に行くまでの道も温泉自体も薄暗いので気をつけてくださいね。山の中にあるので猿でも浸かってそうな感じでしたよ。でも、良いお湯でした。疲れが溶けました。」
正宗に御礼を伝えて貸してくれている家に自分の着替えとかを一式持つと教えてもらった道を真っ直ぐ歩いて行く。
月明かりが綺麗で薄暗いけども木々の隙間から降り注ぐそれで幾分かマシだ。
此処を曇りや雨の日に通るのは結構大変かもしれないが今の季節は気温的にも良いし、夜の散歩なんて気持ちがいいくらいだ。
まぁ、夜に散歩すると普段ならば宇髄さんに心配されてしまうが、今は近くにいないからそこはやりたい放題だ。
言われた山道を登っていくと段々と嗅いだことのある匂いがしてきた。
これは温泉だ。
前に連れて行ってもらった時にこの匂いを嗅いで「これが温泉なんだ〜」と感嘆した覚えがある。
そばにいなくても結局、宇髄さんのことばかり考えてる私は相当な宇髄さん馬鹿だ。
苦笑いをしながら山道を登りきると小屋のようなものが見えてきた。
どうやらアレが脱衣場なのかもしれない。
見たところちゃんと男女分かれているのでデカデカと"女"と書かれていた暖簾をくぐって、中に入った。
人払いをしていると言っていただけあり、脱衣場には誰もいない。
たくさんある籠の一つに脱いだ隊服を入れると手拭いを持って温泉に向かう。
湯気が水面から立ち上り、そこはまるで天国のような光景。
前に行った時は雪景色だったからこれはこれで素敵だなぁ。
宇髄さんとも…また温泉に行けたらいいなぁとも思うけど…
あまり欲張るのは良くない。
欲張ればもっと欲しくなって
元に戻したいと言われた時悲しくて手放せなくなってしまうから。