第26章 君の居ない時間※
スペイン風邪だろうと予測をして来たが、やはり診断は当たっていそうだ。
此処にいる医療者の方は現在、スペイン風邪に倒れているため、彼らの治療を優先しよう。早く治ってもらって手伝ってもらわないと流石に私一人では手が足りない。
「ほの花様!呼吸困難に陥っている患者が三名程います。あとは発熱と血痰、咳の症状の者がほとんどのようです。」
「ありがとう!隆元。順番に診てから薬を処方するから付いて来て!」
呼吸困難は正直、もう無理かもしれない。
スペイン風邪の菌が肺にまで達してしまって、肺炎になっているのだろう。
そうなってしまえば点滴で抗菌薬を投与するのが望ましいが、呼吸を改善するためには肺の炎症の治癒が前提だ。
肺が治るのが先か…、死期が先か…。
今の医学ではそれをどうにかすることはできないのが悔しくて仕方がない。
隆元に案内された病室は彼が既に重症患者の人だけを集めてくれていたようで、三人の患者さんが苦しそうにヒューヒューという音を立てて呼吸をしている。
「遅くなってすみません。薬師です。点滴を入れますので、もう少しだけ頑張ってください…!」
一人ずつにそう声をかけて行くがこちらをチラッと見て目尻を下げてくれる人ばかりで余計に申し訳なさが募る。
既にチアノーゼが出ていて酸素が体に回っていないことを示している。
間に合わないかもしれない…。
瞬間的にそう感じたが、諦めるわけにはいかない。
持ってきた抗菌薬を点滴するが、すぐに苦しさが改善するわけでもないので苦しそうな姿を見るのもつらい。
それでも此処で立ち止まっている時間もない。
まだ何十人も患者さんがいるのだ。
次に医療者の人、そして軽症の人…。
全ての人に薬の処方と調合を終えるとあんなに綺麗な青空が見えていたのに辺りは真っ暗になっていた。
鴉の鳴き声を聞くこともなかった。
それにしてもあんなに須磨さんに泣かれてしまったけど一人で来ていたらもっと死者を出していたかもしれない。
昔から顔馴染みの正宗達が一緒でよかった。
彼らであれば痒いところに手が届き、言わなくても私のしたいことを理解してくれるそんな信頼関係があるのだから。