第26章 君の居ない時間※
ここの里は人っ子一人いないと思って歩いてきたと言うのに、案内された診療所は病人でごった返していて医療者も全員発症している状態。
感染の危険性があるから途中までしかお付きの人にも案内してもらわなかったけど、その判断は正しかった。
最早地獄絵図。
全員が全員、流行病。
たくさんいすぎて重症と軽症が全く分かれていない。
死を待つのみと言った人もいる。
空気もこもってしまっていてどんよりとしている診療所内に入ると発熱して意識が朦朧としている状態でふらふらと近寄ってきた医師と看護師。
「きゅ、急患…ですか?」
その目は虚ろで肩で息をしている。
もっと早く来ていれば…!と言う後悔の念が頭を埋め尽くす。
「いえ…!私たちは鬼殺隊当主、産屋敷様の命により救護に来ました!薬師の神楽ほの花と申します!私たちがお手伝いしますので休んでください!」
その瞬間、ホッとしたような顔をして目に溜まっていく涙にこちらももらい泣きしそうになった。
それが地面に落ちるのとその人達が倒れ込むのはほぼ同時。
私たちは無言のバトンを受け取った。
「…正宗はこの二人をどこか空いてるベッドに寝かせてあげて。あと、なるべく窓を開けて。」
「承知しました。」
「隆元は明らかに重症そうな人を見つけて私に教えて。」
「はい。了解です。」
「大進は病院食の準備をしたいから厨房を見てきて。出来そうなものがあれば少し始めていて。」
「畏まりました。」
何十人といるスペイン風邪の患者がごった返す中、私たちの命綱は母の作った予防接種。
ここで私たちが罹患しなければ、亡き母の功績が認められることになる。
異国の地から一人こちらに来て、此処に残り家族を作り、暮らしていく勇気は相当なものだったと思う。
鬼舞辻無惨に無念を晴らすのは勿論だが、それよりも先に里の中で埋もれてしまっていた母の薬剤師としての才能が日の目を浴びる機会だ。
産屋敷様が認めてくれた。
宇髄さんが認めてくれた。
鬼殺隊が認めてくれた。
──お母様、私がちゃんと受け継ぐから。見ててね。
そうして窓の外にある空を見れば、綺麗な青空が広がっていた。