第26章 君の居ない時間※
「あ、ああー!そうだったんですね…!此処では皆様そのお姿で…。」
出迎えてくれた人もまたそのひょっとこ姿、そして案内された部屋の中にもまたそのひょっとこ姿の老人。
出てくる人全てがひょっとこのお面を付けているので、部屋の中に入った瞬間、「初めまして」よりも第一声がそれだ。
私が小さな老人の前に座ると、その人が何度か頷いて私を見た。
「そうだ。ワシがこの里の長。鉄地河原鉄珍だ。よろぴく。一番小さいけど一番偉い。畳に頭付けるくらいには偉いけどあんたは可愛いから後ろの男だけ下げればいいぞ。」
「…….え?」
突然のことで意味がわからなかったが、慌てたように後ろにいた三人が頭を下げたので、釣られて結局私も頭を下げる。
「あんたは可愛いからいいのに〜。神楽ほの花ちゃんだな?話は聞いておる。すまんかったなぁ。わざわざ来てくれて。すぐに診療に案内させるが、既に里の半分以上の者が感染しておるようでなぁ。困ったもんだ…。」
「…そうですか。鉄珍様はお体の具合はいかがですか?」
「ワシは今のところ問題ないから心配せんくても大丈夫や。」
見たところ、長と言うだけあって高齢ではないかと察するに感染したら重症になる危険性が高い。
しかしながら此処に来て気づいたことがある。
このひょっとこのお面をしているということはすれ違い様に飛沫感染をすることはほぼ無いだろう。
恐らく感染するのであればこのお面を外すとき。
食事や入浴。
だから鉄珍様はまだ感染していないのかもしれない。
考えられるのは家族内の感染。
そして食事処などでの感染。
入浴できる施設…銭湯や温泉などでの感染だ。
そこさえ徹底して感染対策を講じれば思ったよりも早く終息するかもしれない。
此処にくるまでは手探りでいろんな策を頭の中で考えてきたが、実際に来てみたら少しだけ希望の光が見えたことで肩の力が抜けた気がした。
あとは自分が罹患しないように十分気をつけてしっかりと罹患した人の対症療法を行なえばいいはずだ。