第26章 君の居ない時間※
「…私の、舞扇…。」
「ほの花様は一回、隙を見せないと言う特訓を宇髄様にしてもらった方がいいですよ。本当に。」
「……呆れてる…よね?」
「はい、とても。」
大進は普段そんな苦言を呈さないのに此処ぞとばかりに頭を抱えてため息を吐いているのでしょぼんと項垂れる。
目にも止まらぬ速さで舞扇を持って行ってしまったひょっとこ男さん。
此処まで来たら仕方なくも信用するしかあるまい。
長の家と言っていたところは目の前だし、万が一そこが全くのデタラメの家であればその時もう一度考えよう。
「…とりあえず、いこう。舞扇はあとで取り返しに行くよ。」
「宇髄様がいらっしゃらなくて本当によかったですよ。我々は心底彼に申し訳ないです。こんな抜けてるほの花様で謝り倒したいくらいです。ご苦労かけていることでしょう。」
「…言いたい放題じゃない!私だって私なりに宇髄さんを大事にしてるもん!!」
しかし、大きな声で言った内容も結局のところ惚気だと言われても仕方ないことで、もう何を言っても焼け石に水だ。
項垂れながら教えてもらった家へと向かうことにした私は背中に痛い視線を受けながらも、なんとか玄関までたどり着く。
重い薬箱を一度抱え直すとコンコンと扉を叩いた。
「御免くださーい。こんにちはー。産屋敷様の命で救護に参りました。薬師の神楽と申します。」
表札には鉄地河原と書いてある。
確か…宇髄さんから聞いた長の人の名前…そんなような名前だったような…。←覚えていない
あまりに話半分で聞いてしまったようで再び帰ってからの宇髄さんが恐ろしくて仕方ないが、声をかけたことで中から足音が聞こえてきた。
それを聞くと正宗達と顔を見合わせて安堵の表情をした。
兎に角、あのひょっとこ男さん以外の人に会いたい。
しかし、その思いがものの見事に裏切られたのはこのあとすぐの事。玄関に出てきてくれたその人が再びひょっとこ姿だったので、私は狐につままれたような感覚に陥り、暫く呆然としてしまったのだった。